木を見て森を見ない治療

 

 「先生、ここがあそこが」と患者さんの訴えは千差万別であり、一刻でも早く一つでも多くの愁訴を改善したいという切実な要望に、少しでも堪えられるように治療者側としても最大限の努力を常に注がせてもらっています。

 しかし、「二兎を追う者は一兎をも得ず」の故事ことわざもあるように、ポイントを絞って治療をしなければならないこともあります。ですから「あれもこれも、喋るだけは“ただ”やから全部喋っておいて」と笑い話をしながら、一番優先したい箇所を尋ねたり逆にどうして訴えられている箇所からでは手を付けられないのかを説明して、治療は進めていきます。

 

その症状、どこから来ているの?

 例えばぎっくり腰がついさっき発生したのであれば、これは腰だけに集中した方が早く回復ができるでしょう。肉離れをしたとか亀裂骨折(骨にひびが入ったこと)があるとかなども、その箇所を中心にした方が治りは早くなります。眼精疲労に目の知熱灸をしたり、腹痛があるのでお腹を温めるなども同様で、物理的変化の場合には、直接のアプローチが効果的ということです。

 しかし、多発性関節リウマチだとどうなるでしょうか?昨日はあそこが痛くて今日はこっちで明日はどこが痛くなるのか分からないのがリウマチの特徴なので、その日ごとに直接的なアプローチを変えてもほとんど無駄な抵抗です。鍼灸はリウマチを根本から改善できる治療法なので、本質的なアプローチをするためにもその日ごとに対処を変えてはいけないのです。

 でも、今痛みに苦しんでいるのは患者さんです。痛み止めという点では西洋医学の方が遥かに即効性があります。どうしても痛みを我慢できない時には、痛み止めを遠慮なく使ってください。その後の対処は、治療者側で考えていきます。ただし、服薬をして痛みを抑え込んだとしても、強い薬なので胃腸に負担が掛かってしまいます。それで次は胃腸の薬が必要となりその次には肝臓や腎臓の薬も追加せねばならないということでは、最初の痛み止めの処方は一体何だったのだろう?ということがよくある話で、だからこそ鍼灸治療は本質へのアプローチへ的を絞る必要があるのです。

 ちなみに西洋医学で処方される薬のほとんどは、強力に人体をコントロールする=どこか別の場所へ症状を移動させている、ということになります。先程のリウマチが一番分かりやすい例で、リウマチの痛みを胃腸の方へ移動させているのです。症状を移動させている間に元の箇所が回復してくれれば「薬で治った」ということになり服薬が中止されれば目的達成です。ところが、いつまでも服薬だけが続く自転車操業に陥っているだけのことがよくありますね。命が優先なので仕方ないのですけど、抗ガン剤は細胞の破壊そのものが目的です。

 


木を治すのか、森を治すのか?

 人体は非常に多くの細胞が集まってできています。これは細胞が「木」であり木が集まって「森」が形成されるのに似ています。ところで人体には虫歯があったり肩こりや腕が最後まで上がらないなど、小さな変動が常にいくつもありますよね。これらは森の中の「この木は緑に変色している、こっちは黄色あっちは赤そっちは黒」という状態に例えられるでしょう。

 では、変色している木へ個別に治療行為をしているとどうなるか?多分、それぞれの木の健康は回復して変色も回復するでしょうが周囲の木に別の影響が及んでしまい、今度は森全体としての健康を害してしまいかねません。あまり書きたくないことですが、前述の説明でおわかりのように西洋医学はこのようなアプローチのことが多いのです。

 ところが、鍼灸を用いるとしても膝が痛む時には必ず腰とセットで治療をしなければうまくいきませんし、耳鳴りがするとか肩こりがあったり足が痺れたりなどは複数の原因から出てきている症状なので、その箇所だけに施術をしても表面的で一時的な効果しかありません。そこだけに集中していたのでは逆にうまく行かないのです。これは変色している木へ個別に治療行為をしていることと同じだからです。本質を忘れて「木を見て森を見ない治療」になってはいけないのです。

 そこで様々に訴えられている個別の小さな症状(不定愁訴)に対しては、全身のバランス調整だけをした方が逆に効率的となります。これは森全体の健康をというアプローチと同じです。全身状態がよくなれば、細かな症状はいつの間にか回復しているのです。「そういえば風邪が治ったら頭痛も腹痛も止まっていたなぁ」というのと同じです。

 

 ですから、当院では診察段階で色々と訴えを聞いてもそこへ手を伸ばさないことがよくあるのですけど、これは森全体の治療を優先させることで結果的に効率的なアプローチをしているのだとご理解ください。ハッキリした数字ではないものの治療全体の80%以上は、このような森全体を回復させるアプローチです。副交感神経が活発になるような治療をしていると言い換えてもいいでしょう。そのために前半と後半に治療を分けており、その間は眠たくなり熟睡されている方が多いのです。睡眠中は副交感神経がさらに活発となりますから、むしろ眠って頂いた方がもっと自然治癒力が高められるのです。

 そして治療が終了しても健康管理での定期的通院は、もっともっと森全体を健全にしてくれることでしょう。

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