2005515

 

私の妊娠体験から

 

滋賀漢方鍼医会  二木 優子

 

 

 今私は35週目の妊娠9ヶ月目です。あと4日で臨月に入ります。予定日は(2005年)616日です。今は平日は午前中,土曜日は1日、にき鍼灸院で仕事をさせてもらっています。

 私自身も産まれる直前まで働きたいと思っていますし、院長の二木先生も「そのつもりだ」とおっしゃってくれています。女性の鍼灸師の方は、妊娠中でもなるべく仕事をされることを、私はお勧めします。妊娠中に仕事,治療に携われるという事は、鍼灸師の自分自身にとっても、とても意味のある事だからです。

 

 私はその事を初めは知らなかったのですが、私の夫でもある院長の二木先生に言われて驚きました。「妊婦というのは生命力(エネルギー)がものすごく盛んになっている時だから、その時に患者さんに治療をすると気を多く出せるので、それをくり返す事によって、一度にたくさんの気の出し方を覚えられる。だから、経絡を動かす力がアップする。自分では気が付いていないかもしれないけれど、前より気をかなり出せるようになっているし、はやく動かせるようになっている。だから、妊娠中に治療に携われるということは、ほんまに良いことなんや。」と言われました。生命力(エネルギー)が盛んな妊娠中に治療に携わることによって、気を一度に多く出す方法が覚えられる。それによって経絡を動かす力がアップし、技術の向上につながるようです。

 妊娠をして、つわりで吐き気がして気持ちが悪かったり、体が疲れやすかったりするので、てっきり赤ちゃんにたくさん栄養がいくので、体の状態もエネルギーも低下しているのかと思っていたのですが、逆なのですね。びっくりしました。妊婦はエネルギーが盛んで、気が溢れているのですね。

 同じようなことを他の方にも言われました。それは、私がとても尊敬している方で気の感じる能力の強い方がいらっしゃって、その方に先月の4月30日に会いに行った時の事です。夫を紹介したいのもあり、夫と二人で会いに行きました。いろいろな話をした後、帰りがけの頃にその方が夫に「失礼ですけど、今左のこめかみから首,肩甲骨内縁にかけて凝りと痛みがないですか」と。夫は「はい、少し。」と答えたのですがその方が私に「二木先生(夫)は、少しって言ってるけど、だいぶ凝っていると思うから、優子ちゃん治してあげて。今の優子ちゃんは、とても生命力(エネルギー)が溢れている時で今でも手からエネルギーが出てるから、今の優子ちゃんならそれをとってあげられるから。旦那さんを癒してあげるのも奥さんの務めだもんね(笑)。でも、本当に不思議ね、母親というのはなぜか分からないけれど、エネルギーが盛んで気が溢れているのよね。」と言われました。二木先生(夫)にも言われていた事ですが、改めてそのように言われ、子供を宿すという事の神秘,お腹の中で子供を守り育てている母親の強さのすごさを改めて感じました。

 ですから、女性の鍼灸師は、妊娠中でもぜひ仕事をしてください。私が、妊娠中でも仕事ができるのはとても恵まれています。院長(夫)とスタッフの理解があってこそ、ここまでこれたと思っています。妊婦は少し無理をすると、しんどくて横にならずにはいられない事も時々あり、実際にありました。それでも働かせて頂いており、とても貴重な体験をさせて頂いています。

 

 今回のテーマが、「妊婦の私と自己治療」ですが、妊娠をするといろいろな体の変化に伴い、様々な症状が出てきます。しかし今の私は無茶苦茶に元気な妊婦で、このぐらいお腹が大きくなってくると、「フーフー」と言ってしんどそうであったり、腰痛がありそうなものですが、腰痛もなくものすごく元気です。仕事中も、とても元気そうなので患者さんにもびっくりされます。それは、普段の生活の中で行っていることが予防になっているのだと思います。妊婦さんが患者さんとして、治療室に来られることがあると思います。その時に術者は治療によって症状を軽減してあげることも大切ですが、その症状がこれ以上ひどくならないように,軽減するように,予防できるようにアドバイスしてあげることも、とても大切な事だと思います。

 私の今行っていることで、元気な理由の大きな要因として大きく分けると、三つだと思います。一つ目が安産灸(三陰交の灸)を毎日している、二つ目が適度な運動、三つ目が話をする相手がいて一人でいる時間が短いということだと思います。

 まず一つ目の三陰交のお灸ですが、愛知漢方鍼医会の渡部先生に詳しく教えて頂きました。安産灸(三陰交の灸)を30年前から患者さんに指導してらっしゃる先生で、渡部先生自身も自分が妊婦だった時にされたそうです。渡部先生は体の線がとても細く、お医者さんが「自然分娩は無理だから」と言って産む前に帝王切開の準備をして待っていたぐらいだそうです。しかし自然分娩ができ、しかもものすごく安産だったそうです。三陰交のお灸は、切迫流産等の妊娠経過中の問題がなければ5ヶ月目から始めます。5・6ヶ月目が一日に左右7壮ずつ、7・8ヶ月目が14壮ずつ、9・10ヶ月目が21壮ずつと毎日します。そして、予定日が近づいてきたら壮数を増やします。増やし方は50壮でも100壮でも良く、一度にそれだけ据えるのは大変なので、一日掛かりでも良いそうです。予定日を過ぎても陣痛が起きず、なかなか産まれない時はあわてず、施灸の数を増やすと同時に手の陽明経の合谷穴にも同数の施灸を試みると良いとのことです。お灸を据えていると、陣痛が定期的という訳にはいかない事があるそうです。10分間隔であろうと5分間隔であろうと、間に1分間隔というのが来たら、じきに産まれてしまうので早く病院なり分娩室に行くようにとのことです。

 お灸の大きさについてですが、半米粒大です。お灸を据えていると、かさぶたが出来て熱く感じなくなりますが、大きさを変える必要はありません。熱くなくても十分効いています。

 安産灸の効能として、なぜ三陰交にお灸をすると良いのかというと、先々月にお灸についての講義で二木清文先生もおっしゃいましたが、@産道がゆるむ、A胎児が大きくなりすぎない、B逆子を治すという効果があります。

 産道がゆるむと胎児が出てきやすいので、安産につながります。Aの胎児が大きくなりすぎないというのは、母体にも赤ちゃんにも負担が少なくてすみます。体重が、2700g〜2800gあれば、十分だそうです。Bの逆子を治す効果があるについては、三陰交は逆子の治療につかうツボとして、有名なツボです。(三陰交だけで逆子が治らなければ、至陰,陽池も加える必要がある場合もあります。)

 実際に自分にお灸をした感想ですが、お腹が大きくなるにつれて感じることは、お腹がとても温まり気持ちが良いです。そして、妊婦は足がむくみやすくなるのですが、冷えてだるい時にお灸をすると、三陰交から湧泉まで温かいのが響いて足が温まりだるさが楽になるのをすごく感じました。このような事から三陰交のお灸は、妊娠中の体にとっても安産のためにもとても良いと思います。

 

 二つ目の適度な運動ですが、安定期に入った五ヶ月目ぐらいからは、なるべく体を動かす方が良いです。妊婦の水泳教室であるマタニティースイミングに週一回通ったり、それとは別に泳ぎに行ったり、外を歩いたりして体を動かすようにしています。安静にした方が良い目安は、お腹が張った時です。お腹が張ってきた時は安静にした方が良いですが、後は大丈夫です。私が参加したマタニティースイミングは、水の中でするエアロビクスみたいな感じのもので音楽にあわせて踊ります。初めてやる人は、「こんなに動いてもお腹の赤ちゃんびっくりしないの」と思うぐらいけっこう激しく踊っています。しかし、ベテランのインストラクターの先生で「妊婦はこれぐらい動いても大丈夫」だと分かってらっしゃる先生ですから安心です。妊娠中に陸地ではとてもできないような動きが、水中ではできます。太ももをおもいっきりあげたり、飛ぶような動作が無理なくできます。運動前と後に体重をはかるのですが、平均的に0.3〜0.5sの体重が減っています。多い時では1sも減っているとみんなが言っているぐらい、動きます。

 妊婦は、赤ちゃんが大きくなるにつれて内臓などが圧迫されて、血液の循環が悪くなります。それによって、体がだるくなったり下肢がむくみやすかったりするのですが、マタニティースイミングをした後は、体全体がすっきりして足が軽くなるのを感じます。その他、大きいお腹を支えるための筋肉や出産に使う筋肉が鍛えられます。赤ちゃんを支えるために負担がかかって硬くなった関節(特に股関節),筋肉が伸ばされます。動いている時、とても伸ばされているのが分かって気持ちが良いです。おもいっきり体を動かせるので、ストレス発散にもなります。

 水の中に放したら生き返った魚のように、プールの中にいるみんなの目が生き生きしているので、インストラクターの先生も「みんな、めっちゃ目が生き生きしているね。」とにこにこして言われます。

 運動をする事により、筋肉が鍛えられ体も柔軟にし循環も良くなり、自然と腰痛,肩こりの予防にもなっていると思います。

 

 そして三番目の理由としての話相手がいて一人になる時間が少ないというのは、妊娠中は精神的になぜか不安定になりやすい時期なので、妊娠前よりイライラしやすくなったり泣きやすくなったりするとよく聞きます。

 旦那さんが仕事で夜帰ってくるのが遅く、家にいると話相手もいなくて、しかもつわりなどで身体もしんどいと、マイナス思考気味になり精神的に余計に不安定になりやすいようです。最近、マタニティースイミングに来られるようになったばかりの方で、夫の転勤でこちらに引っ越ししたばかりの方がいます。そのためマタニティースイミングに入会するまでは、周りに知り合いが全くいなくて旦那さんが帰ってくるのも夜遅いので、帰ってくるまで話相手もおらず、ずっと一人で家にいて、しかもつわりがひどかったらしく、外にもあまり出られなかったそうです。それに付け加えて、転勤前は彼女もばりばり仕事をされておられたので、その生活のギャップのストレスは相当にあったと思います。本当に暇で、つわりでしんどいし気が変になりそうだったとおっしゃっていました。

 妊娠中は、異常に眠たくなったり疲れやすくなったりするので、思うように家事ができなくて自己嫌悪に陥ったり、赤ちゃんが生まれてくる喜びと同時に母親になる事への不安など様々な事で不安定になりやすいようです。

 東洋医学的に言うと、肝は子宮を主っており、子宮を栄養し子宮の働きを円滑に行わせています。そのため、妊娠により子宮を以前より多く栄養しなければならず、肝になんらかの負担がかかり、肝の変動が起きやすくなっているのかもしれません。血によって精神活動は営まれているので、肝血が消耗されやすかったり、血が滞りやすくなって、精神活動に影響をおよぼしやすくなっているのかもしれません。精神活動以外に、妊娠によって肝に負担がかかっているなあと感じる事は私もそうですが、肝が主っている爪の薄皮が、はがれやすくなりボコボコしてきましたし、他の人も言っているのですが肝の主る筋肉がつりやすくなっています。

 精神的に私が元気でいられるのは、午前中に仕事をさせてもらっており目標をもって過ごせていることと、色々な患者さんやスタッフの方と話す機会があるということも大きいと思います。そして、水泳で同じ妊婦仲間がいる事でとても心強いことも、元気でいられる大きな理由だと思います。

 安産灸とマタニティースイミングやマタニティーエアロビクスなどの運動が私はおすすめですが、人と話せる場に積極的に参加する事も、妊娠による様々な症状がずいぶん軽減され元気な妊婦になれると思うので、妊婦さんが来られた時はこのようなアドバイスもしてあげてください。

 

 その他で渡部先生がおっしゃっていたのですが、妊婦さんが気をつけて欲しいことは、体重を増やしすぎないようにすることです。昔は、赤ちゃんの分もと二人分を食べるようにとよく言ったそうですが、今はなるべく増やさないようにと病院の先生も言われます。胎盤,羊水,赤ちゃんで合わせて約5〜6sなので、多くてもそれより少し増えるぐらいまでにしておいた方が良いです。増えすぎると、妊娠中毒症にかかりやすくなります。そして、中年になってくると糖尿病になりやすくなるともおっしゃっていました。逆に、体重制限をしすぎて赤ちゃんに栄養がいかなくても困るので、カロリーの高いお菓子を食べ過ぎず栄養のある食事をしてください。

 

 テーマが「臨床あれこれ」なのですが、ほとんど予防の話で治療について話をしていませんので、最後に少しだけ話をさせていただきます。はじめてつわりの症状が出た時、つわりだとは思わず「変なものを食べて食中毒になったんかなぁ」と思い、食中毒で有名なツボの裏内庭にお灸をしました。裏内庭は、吐き気にきくツボなので、つわりの吐き気も少し楽になったのを、覚えています。つわりの時には、内関や|中などの胸の所,背中の上部の督脈の部分などに、圧痛,反応が出やすいです。瑚Iを、内関,胸の圧痛のある部分に置いたり胸をマッサージすると、圧痛が楽になりつわりも軽くなりました。

 そして、横にならないといけないくらいにしんどい時や風邪のひきそうな時は、自分でするべきだったのですが、甘えからか二木先生に治療をしてもらっていました。経絡治療+首の矯正をしてもらっていました。そのお陰で、風邪がはやっている時期でも全く風邪をひかず元気でした。治療をしてもらって思った事は、普段は女性の基本の治療側である右で治療することが多かったのが、妊娠をしてから左治療側に変わってしまっている事が多かったということです。急激に陽気が飛んでしまったような時に、治療側の左右が入れ替わることが多いです。妊娠中は、急に気持ちが悪くなったりそうかと思えば元気になったりと、体調の変化が激しく、陽気が妊娠前より急激に飛んでしまうことが多いように思います。

 妊娠後期になると赤ちゃんが大きくなってくるので、胃がつかえて胸焼けがしやすくなったり胸のあたりが苦しくなったりします。妊娠後期は、自分でも経絡治療で治療をするようになったのですが左治療側で楽になったことが何回もあります。胸のマッサージをして圧痛を少なくするのも、胸焼けが軽減されることが私はあります。治療についての話が短いですが、以上で終わります。

 

  出産を終えて

 私は、上記の発表の約一ヶ月後の6月18日に無事に2778グラムの女の子を出産しました。出産の前日まで仕事に出ることができました。出産前日の仕事は、陣痛とはほど遠い軽いものでしたが三十分ごとに子宮収縮がきており、それを感じながらの仕事となりました。

 出産までの約一ヶ月間は、出産のためにできることはできるだけやっておきたいという思いから、さらに運動量を増やしました。私が、「朝、仕事に行く前に散歩をしたい」と二木先生(夫)に告げると「一緒に行く」と言ってくれました。それから毎日、5時半から6時半まで二人で歩くのが日課となりました。これから産まれてくる子供の話やいろいろな話をしながら歩きました。毎日、二人で歩きに行くことで、産むのは女性側かもしれませんが「夫婦で一緒に産む,一緒に頑張ろう」という気持ちがさらに高まっていきました。病院で教えて頂いた出産の時の呼吸法も、何回も二人で練習しました。

 そして渡部先生が、床拭きや柱みがき,トイレ掃除は安産のためのとても良い運動だとおっしゃっていたので、そんなに広くないマンションですが、全部の床を拭いてまわりました。柱も少し磨いて、トイレ掃除も毎日のようにしました。

 さらに近くで週に一回、太極拳をしているところがあり昼すぎからあるので、その日だけ早めに仕事を抜けさせて頂いて、参加しました。初めは、お腹の大きい私が参加をしてるのを見て、周りの方はびっくりされていましたが「いつが、予定日なの」などといろんな方に、温かく声を掛けて頂きました。太極拳の先生も、「とっても、お腹の赤ちゃんにも良いのよ。」と言ってお腹をなでて下さいました。マタニティースイミングも、出産をする週まで参加することができました。お灸も予定日が近づいたころから壮数を増やして、毎日70壮〜100壮ぐらい据えました。

 こうして出産に向けて、とても有意義に過ごせ、心も体も準備が整っていきました。

 

 そして、いよいよ待ちに待った出産の時を迎えました。出産をするぎりぎりまで、お灸を据えたかったのですが、病院内は火を使うのは厳禁との事で、入院をしてからはできませんでした。それだけが、少し残念でした。

 入院をしたのが、土曜日の夜中の0時くらいで、産まれたのがその日の21時20分ごろでした。赤ちゃんがまだ高い位置にいて、子宮口があまり開いていない状態の時から陣痛が起こりました。ですから、思ったより陣痛が長かったのが想定外でしたが、分娩台に乗ってからは20分も経たないうちに産まれました。だいたい赤ちゃんは、後頭部を天井に向けて出てきますが、私の娘は顔面を天井に向けて産まれてきました。その場合は、分娩台に乗ってから出てくるのにとても時間がかかるそうです。しかし、分娩台に乗ってからは速かったので助産士さんに驚かれました。そして、何よりも出血の量がとても少なかったので、助産士さんに「きっとお灸の効果でしょう、みるみるうちに産道が柔らかくなりましたし、出血量がとても少ないです」とおっしゃって頂きました。

 そして、産後の回復もとても良かったです。出産をした友達には、出産直後は産まれたての鹿みたいな歩き方になって、点滴を吊してある棒を支えに部屋に帰ったとか、車いすを出してもらったなどと聞いていましたが、普通にスタスタ歩けました。出産直後の私があまりにも普通に歩くので、同室の方が驚かれていました。

 出産直後の血液検査でも、担当医の先生が「出産後とは思えない、とても良い値です」とおっしゃいました。私の血液検査の結果は、助産士さんと看護士さんには少し有名になっていたらしく、こういうエピソードがありました。私はもともと肌の色が白い方なので、それを見た担当医ではない先生が貧血なのではないかと心配をされたらしく「顔色が白いけど、貧血はしていないか」と聞いて下さいました。すると、私が返事をする間もなく、「血液検査の結果が、産後とは思えないくらいのヘモグロビンの値でした」とその先生の隣にいた看護士さんがおっしゃいました。先生もびっくりされながら「それは、良かった」とおっしゃられました。

 もう一つ自分でも驚いたのが、月経が産後一ヶ月で来ました。普通は、半年から一年後にくるそうです。祖母に相談をすると、「産後の回復が、それだけ早かったのではないか」といわれました。

 

 分娩台に乗ってから20分もかからなかったですし、出血量もとても少なく産後の回復も早かったので、充分に安産と言えると思います。夫の仕事が終って病院に来てくれたころから、陣痛が一層強くなり、それからはあっという間に産まれたので、立ち会い分娩も出来ましたし、「お父さんが来るまで、産まれるのを待っていたんだね。親孝行な子だね」と助産士さんにも看護士さんにも言ってもらいました。しかし陣痛が思ったよりも長かったので、それがどうしてもひっかかっていました。運動などもしっかりやり、自分では出産に向けて頑張ってきたつもりなので、「何故、陣痛が長くかかったのだろう」と考えても理由が分からず「もしかして、少しツボがずれていたのか」とさえ考えました。

 そんなとき、愛知県岡崎市の吉村医院の吉村正先生の『自然なお産にこだわるわけ,そしてそこで見たもの』という講演を聴く機会がありました。その講演を聴き、書いておられる本も読ませて頂き、自分がひっかかっていた疑問が解けていきました。吉村先生は、吉村医院にて二万人以上ものの妊婦の自然なお産に取り組んで来られた先生です。機械に囲まれた部屋で、薬や点滴などをたくさん使う人工的なお産ではなく、自宅風の分娩室で薬などを使わず、自然の力に任せたお産に取り組んでおられる先生です。

 講演のまず始めに、「薬は毒です」とおっしゃったのがとても印象的でした。そして、自然なお産の大切さ・すばらしさを、色々な経験を交えて話されました。先生は、陣痛が微弱であったり、徐々にしかすすまない理由をこのように説明されています。軟産道(子宮口や膣)がまだ赤ちゃんが通るための充分な軟らかさになっておらず、赤ちゃんの頭の位置が高い人に起こるそうです。そのため、赤ちゃんの頭が時間をかけてだんだん下がってくるのを待ち、また軟産道が軟らかくなってくるのを待つために、おのずから陣痛が弱くなるという、自然な体のしくみによるものだそうです。陣痛が微弱な場合、「微弱陣痛は異常なのだから、治療しなければならない」という単純な理論でもって、陣痛促進剤を使うのはとても危険であるとも説明されています。いまは安易にこの薬を使っている病院が多いようです。私が産んだ病院でも、話を聞くと「陣痛がなかなか強まらなくて、陣痛促進剤を使った」と言っている方が何人もいましたし、他の病院で産んだ友達もそのように言っている人もいました。赤ちゃんの頭の位置が高く軟産道が硬いときに、陣痛促進剤を使うと、かえって赤ちゃんの頭に強い圧迫がかかって問題が起きたり、硬い産道がやぶれたり、ときには子宮が破裂したりすることだってあるそうです。そこまでいかなくても、硬い産道を無理に通るので出血量も増えますし、母子ともにとても体に負担がかかってしまいます。

 私のお産を思い出してみると、陣痛が少しずつ強くなってきたかなと思ったら少し弱まった時があり、その時は「あれ、陣痛が少し遠のいたかな」と思っていました。しかし、徐々に赤ちゃんが下がっていくための体のしくみだったのです。そのおかげで、出血量がとても少なく、母子ともに負担が少なかったのだと思います。吉村先生の医院では、陣痛が何日間掛かろうとも、陣痛促進剤を使わずに、ゆっくり自然に産まれてくるまで待つそうです。そうやって自然に産むと、母体の出血がほとんどないそうです。そのため、生まれたての赤ちゃんは血まみれだというイメージがありますが、そうではなくとてもきれいだそうです。そして、そういう赤ちゃんはとても心が安定していて、安心したとても穏やかな顔をしていると吉村先生はおっしゃっています。「おぎゃーおぎゃー」と泣き続けるのは、元気な証拠だとおもわれがちですが、無理に押し出されて産まれた事により、精神が不安定なため泣いているそうです。

 自然に産んだ赤ちゃんは、少し泣いてもすぐ泣きやんで、とても穏やかな安心した顔をするそうです。安心して、眠ってしまう赤ちゃんもいるそうです。吉村医院で産まれた赤ちゃんの生まれたての時の写真を何枚かスライドで見せて頂いたのですが、赤ちゃんの眼はとても生命力に満ちた生き生きした眼をしており、そのすばらしさに感動を覚えました。他の赤ちゃんの写真は、とても安心した穏やかな顔をしていました。後で、私の娘の生まれたての写真を見ると、とても穏やかな優しい顔で眼を瞑っており、自然なお産ができたのだということを物語っているようでした。

 安産(よいお産)とは、「陣痛は短く,痛みも少なく,産むのは早く」というイメージから陣痛が長いお産はよくないのではないかと思っていました。しかし、吉村先生の講演を聴かせて頂き、私はとても自然な良いお産ができていたのだと思いました。陣痛が長かったとしても、母子共に体の負担が少なく、赤ちゃんがとても安心した気持ちで産まれて来られるようなお産こそが、本当の安産と言えるのではないかと思います。安心なお産を縮めて「安産」という言葉があるのではないかとさえ考えます。

 しかし、吉村医院で生んだ方と私との間で、大きく違った事が一つあります。それは、吉村医院で産んだ方は、陣痛が三日も四日も掛かった方でも産んだ直後に「もっと、産みたい」と笑顔で言われるそうです。それには、驚きました。産んだ直後にはなかなかそうは思えないからです。私は、思えませんでした。大きな違いは、産んだ環境にあると考えます。私は陣痛の間、定期的に血圧を測ったり、定期的に器具を子宮口の中に入れて赤ちゃんの位置がいまどこかを確認されたり、途中から赤ちゃんの安全のためにと抗生物質の点滴を受けたりしたので、機械と器具に囲まれているストレスが、相当にありました。特に、点滴の針がささっているのであまり動けず、陣痛の時に自分の楽な姿勢ができなかったことがつらかったです。そのため、妊娠生活はものすごく楽しかったので次の妊娠生活も楽しみですし、もちろん産まれてきてくれた感動も大きかったのですが、陣痛に関しては「陣痛って、こんなに痛いしつらいんやぁ、次のお産でも乗り越えられるかなぁ」と不安になりました。

 とてもリラックスのできる自然な環境で産むと、産んだ直後から「もっと、産みたい」と思えるようなお産ができると知り、ますます自然なお産の素晴らしさを感じました。これは分娩の最終段階になるとモルヒネ様のエンドルフィンが分泌され、感情を高揚させ理性を抑え鎮痛作用を発揮させるのです。それによって女性は痛みを乗り越えることが出来るばかりか、気持ちのいい感覚をも味わうことが出来るとのことなのです。苦しいマラソンを走っていたとしても脳内にはエンドルフィンが分泌されてくるので、ゴール直後から「また走りたい」と思える状況を想像していただければ分かっていただけるでしょう。

 

 話が少し飛びますが、吉村先生は帝王切開についても説明されているので、付け加えさせて頂きます。産婦人科医の間では、かなり以前から帝王切開で産まれた児に起こる『帝王切開児症候群』というものが問題になっていたそうです。どういうものかというと、産まれてから10日くらいまでの新生児の間に起こり、呼吸困難を起こしやすい,チアノーゼ,多呼吸,低血糖,低体温などの新生児適応不全症候群のことで、外界の生活にうまく適応できない赤ちゃんが多いそうです。その原因は、これまではっきりしていなかったのですが、徐々に研究が進み、分かってきたそうです。

 特にホルモン的な立場から説明すると、次のようになるそうです。赤ちゃんは産まれてくる時に、長い時間、母親の産道の中で、頭をきつく圧迫されたり,陣痛が起こるたびに臍帯や胎盤が圧迫されて、酸素の供給が一時的に弱まったり,血流の流れを妨げられたり,ものすごいストレスが起こります。そんな時に、血液中にアドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモンが分泌され、酸素欠乏やエネルギーの不足、体温の低下といった生命を危うくする状況から守る働きをしてくれます。そして、生まれる瞬間まで赤ちゃんの血液の中にこのホルモンが大量に放出されるおかげで、赤ちゃんは胎内とは違う出生直後の大きな環境の変化に耐えられるそうです。

 しかし帝王切開で生まれると、狭い産道を長い時間かけてくぐり抜けてくるという試練を受けていないため、そのような悪条件に耐えるためのホルモンの分泌が少なくなります。そのために、出生直後の呼吸困難などの「帝王切開児症候群」をおこしやすいと考えられます。そして、出生直後だけでなく、成長する過程でも抵抗力の弱い体になる可能性があると考えられています。

 緊急事態などの時に、帝王切開で助かる命もあるので、すばらしい技術ですし否定をしているわけではありません。しかし、一回目が帝王切開だったから二回目も帝王切開だとか、逆子だから、高齢出産だから、少しお産が長引いて赤ちゃんが危険だからというような理由で、自然なお産ができる可能性のあるお産も帝王切開にしてしまう病院も少なくありません。帝王切開や計画分娩、麻酔による無痛分娩など様々な技術が進歩してきた中で、自然なお産のすばらしさを、忘れてはいけないと思います。そして、妊婦側もお医者さん任せにするのではなく、良い出産ができるために、体をしっかり動かすなど妊娠中の生活を大切に過ごさなくてはいけないと思います。

 

 私は、今回の妊娠を通して、良い出産をするためには、妊娠中の生活がいかに大切かを知りました。その事は、渡部先生にもアドバイスをいただきましたし、吉村先生も講演で強くおっしゃられていました。そして、それと同時に自然なお産の素晴らしさをとても感じました。

 自然なお産の素晴らしさを知った今、陣痛促進剤を使ったり、帝王切開をする妊婦さんがなるべく少なくなるようにと願うばかりです。そのために、私は、鍼灸師として何ができるでしょうか。治療にこられた妊婦さんの自然な力が引き出せるように、鍼灸術によって体の調子を整え、自分のお産を通して安産灸をすすめたり、自然なお産のすばらしさを伝えていきたいです。そして、妊娠中の生活を大切にする妊婦さんが増え、安心した顔で産まれてきてくれる赤ちゃんが増えるように、努力をしていきます。




講義録の閲覧ページへ戻ります。   資料の閲覧とダウンロードの説明ページへジャンプします   『にき鍼灸院』のトップページへ