2005.7.17

 

「漢方鍼医基礎講座」 その3

 

二木 清文

 

 第三回になってきましたが、ネタが切れないように適当に回しながら同じことを言いながらということになるのですけど(苦笑)。

 まずは前回もお話しさせてもらった子供の話になるのですけど、追加報告から入らせて頂きたいと思います。妊娠期間中の話をあまりしていなかったので話してみようと思います。妊娠を一番最初に気付くのは、つわりと脉なのです。妊婦さんの数よりも、実は妊娠の数はかなり多いのです。何故かといえば一ヶ月、もしくは二ヶ月未満の流産の数がかなりあるからです。一ヶ月未満の流産であれば普通の生理として全く気付きませんし、二ヶ月であったとしても「ちょっと遅れたかなぁ」程度でしょう。原因の一つは妊娠したとしても、着床がうまくいかないということなのです。もう一つの原因は、これは障害のある命が生まれていた確率がかなり高いからなのです。どれくらいの確立で生まれるかといえば実に25%、だから妊娠の四分の一は障害のある命なのです。ということは四組に一組の夫婦には、本当は障害のある命が授かっていることになります。その人たちが沢山産まれていれば、今の障害児問題などいわれてはいないでしょう。ただ、これが残念ながら生命力が足りないというのか自然淘汰というのか、着床しないか生命力が到達しないケースがあるということで、実は障害のある命を妊娠したということにすら気付いていないことが多いのです。

 それで最初に気付くのが、つわりと脉。つわりは皆さんご存じのことで、急に気持ち悪くなってオエッとやったり酸っぱいものが欲しくなったりするやつです。「ほんまかいな」と思っていたのですけど、ものの見事に酸っぱいものが好きになっていましたねぇ(笑い)。酸っぱいもの以外は食べられないわけではなかったのですけど夜になると気分が悪くて食べられなくなる。朝は比較的食べられるので朝ご飯を食べられるだけ食べておいて、お昼は気持ち悪くならない程度に突っ込んで夜は食べないという状態でした。一度も吐き戻すことがなかったので、かなり軽い部類でしょうし毎日気持ち悪いという期間も短かったです。しかし、魚は特に煮魚は食べられなくなりましたね。鍋をしていて途中から魚を入れると、「もうその鍋はいらん」という状態でした。気をつけて入れる順序を考えていました(笑い)。あとは夜が気持ち悪いとは言っていませんでしたけど、胸が支えるとか動悸がするは言っていました。今回の妊娠の中で、効果的なつわりの回避策は見つけられませんでした。でも本治法・標治法と行えば、かなり楽になりました。食事はやはり取れなかったですけど吐きそうな感じはなくなっていましたし、もちろん眠れていました。

 私たちは鍼灸師であり経絡治療家の集まりですから「風邪をひいたから風邪薬を飲もう」と発想する人はまずいないでしょうけど、ひどい風邪をひいてしまっては困るので体調がおかしくなりかけたらすぐに治療することを心がけました。

 脉診の話が置き去りになっていましたけど、脉診を初心者に覚えてもらう時に左手の方から腎・肝・心というように並んでいるのですけど、左右には分けず五行的に肝心脾肺腎の順で覚えてもらうようにしています。左手関上のところで中指に当たるところが肝、示指のところが心、右手に移って(右手ということは術者の左手になります)中指が脾、寸口示指が肺、左手に戻って尺中が腎。そうしたら右手(術者からいえば左手)の薬指の部分が残りますが、これは古典には心包と書いてあるものが多いです。心包とは心臓を包む膜であり心の陽気は心包を通じて出てきますから、治療は心包経を用いることになります。だから脾虚証の治療は心包経を用いることになり、脾・心と補うのですけど実際に使う経絡は心包経ということになります。だから心と心包はまとめてしまって、左手寸口で診るということになります。これは学派によって今でも分かれているところなのでしょうけど、治療としては心包経を使うのですからこれを定説としていきましょう。じゃ空いたところ(右手尺中)は何かといえば、これは命門を配しています。「左腎に右命門」です。腎と腎の間ですから「腎間動悸(じんかんのどうき)」といいますが、漢方医学で「死」とは単に病気が重くなって動けない状態を指していて、西洋医学的に死亡の状態は「命絶」と言います。腎間動悸があれば命は絶えないけれど腎間動悸が絶えてしまうと死亡してしまうとされています。脉診ではこの命門を診ることになります。

 命門ということでは忘れられないのが小里勝之先生の話で、小里先生が経絡治療に入ってきたきっかけが戦前に盲学校同窓会の幹事をしていて何か勉強をしようということになり、「杉山流三部書」の講義を頼んで勉強をすることになりました。勉強期間中に奥さんが歯痛で転げ回られていたのですが、それまでなら「早く歯医者へ行ってこい」となるところをせっかく勉強しているのだからと「胃経の主りだから」ということで奥さんを押さえつけて三里に鍼をしたなら、ピタリと歯痛が止まってしまったのです。「これはどういうこっちゃい」と関東弁で思われたのですね(笑い)。それまでなら按摩をして鍼を刺すいわゆる三療ということを小里先生もされていたのですけど、「絶対にこの経絡を使った鍼灸術でなければならない」というように、その時に啓示というのか目覚めというのか気づきというのか、まぁ啓示を受けられたのです。小里先生自身も病弱だったらしいですけどこの奥さんが病弱な方だったので、「家内の身体で私は勉強させてもらった」としょっちゅう語られていました。亡くなられる時に脉を診ていると、脉はまだ打っているのに腎間動悸を診てみようということでお腹に手を当ててみると腎間動悸がなかった。「あぁこれで家内も死んでしまうのかなぁ」と思っていたら、横で見ていた娘さんたちが「お母さんの顔色はいいよ」「まだまだ大丈夫」といっていたのですけど、やはり亡くなられたという話をされていました。

 それで脉診から随分と遠回りになっていますがこの命門なのですけど、命門の脉がポコッと浮いてきてしかも肺経の尺沢の方へ、つまり肘の方へ伸びる脉になっていきます。普通の生理の時でもポコッと出てきてある程度伸びるのですけど、妊娠の時には本当にビューンと伸びてくる感じになります。それで脉診してみたのですが、やはり元気よく打って伸びていました。妊娠が分かれば分かるほど、どんどん伸びていきます。今までに私は最短で四週間目に見つけたのですけど、聞いた話によると妊娠二週目で見つけたという先生もおられました。今回もつわりと脉でこれは妊娠しているなぁと医者へ行く前に分かったのですけど、ただちょっと結婚までのタイミングなどがあったので「妊娠の可能性はそれほどでもないのでは」といったりしながら状況整備を進めていたのですけど、命門の脉を診た段階で妊娠は確実視していました。

 つわりの段階があって次に安定期となり、五ヶ月を過ぎると腹帯をするようになります。その次に安産灸です。安産灸はご存じのように三陰交です。三陰交は両側ともに据えます。本治法の鍼では手足は左右あっても経絡のバランスを整えるのですから「片方刺し」ということで片方にしか施術しないのですけど、この(安産灸)の場合には経絡の通暢をよくするために両側で行います。色々な荘数の決め方があるようなのですけど、一様に言えることは妊娠初期では少なく終盤に向かって行くに従って多くして、最後には時間の続く限りやるというのが定説です。今回は愛知の渡部先生に教えて頂いて、7荘・14荘・21荘と増やしていって臨月に入ってからは線香一本使い切るまでという形でやりました。あとは前回報告させてもらったように陣痛の時間がやや長かったのですけど、分娩台に乗ってからはあっという間に出て、しかも出血が非常に少なかったのが病院関係者の驚きの反応であり、さらに明くる日からピンピン跳ねて歩いていました。私が前回の研修会から帰る時に、とにかく早く顔が見たいし疲労もしているしということで結構疲れた顔をしていたはずなのですけど、病院に着いたら向こうの方から「なに疲れた顔してるの?」と言われてしまいました(笑い)。どういうこっちゃいそれは、という感じでした(笑い)。「朝早くからベッドに寝ているのは退屈なのであちこち探検に行ってきた」なんて言っていましたけど、こんな形で無事に退院させて頂きました。

 

 子供に色々と教えてもらうことがあるのですけど、この一ヶ月間の中で絶対的に教えてもらったことです。それは夜泣きに関することです。うちの子供は夜泣きはしないのですけど、一回だけしたのです。もちろん妊娠期間中もそうなのですけど、人のことを恨んだり怒り続けたり悲しみ続けたりすると胎児によくないと言いますが赤ちゃんがお腹の外に出ても一緒です。特に夫婦げんかをしたり恨みに近い涙を流していると、それを赤ちゃんは絶対に聞いているのです。まだ四週経過したところでちょっとだけ光が見えている程度で物の形などは分かっていないようなのですけど、そんな状態でも寝ている時には夢を見ているようなのです。それで大人が人のことを恨んだりケンカしたりしていると、感情をもろに受けますから怖い夢を見るようなのです。スースー寝ているところから突然キャーっと泣いたので、ビックリしたのです。奥さんは今までになかったことなので「どうしたのこれ」と半分パニックになっていたのですけど、あれだけ寝息を立てていたところからこれだけの泣き声を上げるのだからこれはもう夢でうなされている以外には考えられないと私はすぐに思いました。その前に一つヒントはあったのです。うちの奥さんが妹が産まれた時にお母さんに連れられてお祝い返しを持っていった時に、大きな犬がいたらしいのです。その犬に吠えられて非常に怯えたらしいのですけど、それから十日間ほど夜になると「ワンワン立った・アブー立った・ウー立った」と突然立ち上がって怖がる姿勢をしたらしいのです。夢を見てうなされていたのですね。小さい頃の怖い経験とは、それくらい尾を引くものだなぁというのがすぐ頭に浮かんだので、これはその日に奥さんの方の受け答えが悪かったのですけど怒られて私が家に帰った時には涙を流しながらいじけていたその晩でしたから、これは絶対に親のことを見ていて怖い夢を見ているんだ。このようなことは、しないようにしよう。その日一回だけで、夜泣きはしなくなりました。他の患者さんに「おそらくそう思うよ」という風に喋って、夫婦げんかをよくするところは赤ちゃんの前では絶対にしないようにしたり人のことを恨むようなことはしないようにとアドバイスしたところ、ものの見事に減ったと報告してもらいました。これから私たち親の方が子に育ててもらうのでしょうけど、小児鍼あるいは人間の感情ということでこれからも報告させてもらいます。

 

 それでは本論に入ります。今回は項目数が多いです。

 

 

  証決定までの流れ

 それではできるだけ箇条書きで、証決定までの流れを追っていきましょう。

 

  四診法

 東洋医学の診察は、以下の四分野を積み重ねて最終決定します。脉診や腹診は派手ですし情報量も多いので目立ちますが、あくまでも四診法の一つですから触覚で得られた感覚のみで他を無視し証決定してはいけません。

 

 望診

 目で見て診察をします。異常な形態などを発見することも大切ですが、特に顔面と前腕前面(尺膚)の色を参考にします。舌診を取り入れてもいいでしょう。

 

  聞診

 声や臭いに異常がないかを診察します。臭いについては特に体臭がない限りは無視してもいいかも知れません。声についても特徴的なもの以外はしっかり判断できないことが多くあります。その他に、食べ物の好みとその変化を聞いておくことが大切です。

 

 

 ここにおられる方は鍼灸師もしくは鍼灸学校でも高学年の方ですからご存じのことではありますけど、脉診あるいは腹診のみで証決定をしていくものではないのです。あるいは体表観察があったとしてもです。あくまでも望聞問切を積み重ねて証決定をするのです。どうしても派手ですからテレビウケするというのか実技ウケするというのか、実際に脉診というものは非常に情報量が多いものなのですけどそれが故に見誤るので、それだけには頼らないことを何度も繰り返しているのです。

 まず望診です。顔の色・尺膚の色を見ることを重点的に、あるいは舌診をしてもいいでしょう。これに加えて中医の先生らしいですけど、「待合室に入ってこられて・治療室に入ってこられて・ベッドに上がられる、ここも既に望診の段階なんだよ」と言われるそうです。歩き方があまりに変だとか・おどおどした感じの人だとか・やたら周囲のことは考えず自分のことばかり喋るとか、色々とおられます。例えばドアを「失礼します」と開けてくるおばさんがおられるのです。「ベッドは三番でよろしいでしょうか?」と尋ねてこられるのです。ところが実際に問診を始めると「私はねぇこういう風にして生きてきたんだから・・・」とえらい違いやなぁこの人というケースがあります。気配りが出来て人付き合いもいいのですけど、結局自分の世界に相手を引きずり込んでいるんですね。これがいきなりベッドのところだけを見ていると単純に強引なおばさんに見えるのですけど、内面はもっと強引なおばさんだったということが入ってきた時からの感じでないと分からないのです(笑い)。それからこの方はもう亡くなられているのですけど、異常におどおどしていた方でもうその時には四十代半ば以降だったはずなのにお母さんに連れてきてもらっていました。それで「私は三番?三番ですか?三番でいいんですか?」「三番っていうてるんやん」「三番はここでいいんですか?」「上に書いてありますよ」「あっ、書いてあった」(笑い)。その人を診察して治療はしていたのですけど、他の人の受付をしていて例えば「田中さーん」と呼んだとすると「いえ私は森です」と三番から叫ばれるのです。これは精神的に肝の変動なのかな?あるいは心の変動なのかな?と絞っていくのに入ってこられた時からの動作あるいは逆に治療が終わってからどのような態度を示されるか、そのようなことが参考になると思われます。特に入ってこられた時の動作から望診は始まっているのだという感覚で見ていただければと思います。

 聞診については、ここに書いてあるとおりです。声と臭いを聞きます。特徴のある声、例えばギャーッという金切り声をあげる子供はよく分かりますね。もちろん疳が高いです。他にやたらぼそぼそ喋る人など。このような場合は分かるのですが、それじゃ声に特徴のある人といっても病気との関連はといわれればハッキリ分かりません。声優さんのように非常に声の綺麗な方もおられれば、どこの魚屋のおっさんやというガラガラ声の学生が来たりします。声質ではなくて喋り方と、頭の先から出している・地をはうような声とか絞り出しているなどに注意を向けてもらえればと思います。

 

 子供の話が出たのでまたちょっと喋りますが、うちの治療室に子供が来た場合には、まず言葉が喋れる子供については「どこそこの誰兵衛が来ました」と自分で言ってもらいます。何故そのようなことをするかですが、「ここに何をしに来たのか」を考えてもらうためなのです。子供でも鍼を受けに来るということは「身体が治りたい」「身体を治さなければいけないんだよ」ということをしっかり分かってもらわなければならないからです。「治したい」という気がなければ治るものではありませんし、治りません。これがひどいケースになると「親がいうから通ってやっている」なんて中学生の女の子が昔いましたけど、そうじゃなくて考えさせることが大切なのです。その為には出来ることからさせる。ですから喋れる子供はまず自分の名前を名乗ってもらう、まだ喋れなくても自分で靴下が脱げるなら脱げるまで待つ、自分でベッドに上がって座るまで待つ、お腹を出すまで服を引っ張り上げるのを待つ、決して親に急がなければということは言わないなどが大切だと思います。

 小児鍼の方へ話が流れていってしまいますけど、どこの治療院とは言いませんが子供が来たならまず一緒になってワーワー遊ぶそうです。そして遊びに夢中になっているところで小児鍼をするらしいのです。私はこの話を聞いた時に唖然としました、こんなの火事場泥棒と一緒じゃないですか。これでは全く子供に考えさせる力を付けていないですね。そうじゃなくて考えさせるようにしなくてはならない。では、そこは「綺麗でちゅねぇ」「可愛いでちゅねぇ」なんて幼児言葉を使っていただろうと質問をしました。そんなことは絶対にする必要がないです。例えば犬を見て「わんわんいるね」は違うと思います。「犬がわんわんと鳴いている」これは犬は確かに「わんわん」と吠えるのですから、これは正しいのです。でも「わんわんがいるね」は違うのです。「車がブーブー走っている」はいいのですが、車のことをブーブーというのは違うのです。これが四歳や五歳になってきて「あー、わんわんがいる」と喋っていたなら「あれは犬でしょ」と教えるでしょう。同じものなのに固有名詞をどうして二回も教えるのですか?子供はその時に迷ってしまいます。これはある種、子供に嘘をついているのです。だから幼児言葉など、使う必要はないのです。分かるように喋ってやる必要はありますよ。「ごはん、まんま」など並べればこれはいいです。「犬がわんわん鳴いてるね」はいいのです。ご飯を見せて「まんまを食べよう」しか言わないのはダメです。「わんわんが鳴いているね」はダメなのです。

 もう一つ嘘をついている話なのですけど、子供に嘘をついてはいけません。この間お祝いに来て頂いたのですけど、子連れでおばあちゃんと親とで来られたのです。親戚の治療をする時に何が一番困るのかと言いますと、子供が入ってくることです。通常の患者さんの子供なら器具を触ろうとすると「これはダメ」とガード出来るのですけど、やはり親戚の子供はガードしにくいのです。私は器具を触られるのが大嫌いなのですけど、治療室に入ってこられたならあちこち触られるので困りますから最初から入ってこないで欲しいとしています。だけどチョロチョロ入ってきて「おばあちゃん」と呼んだ時に、「おばあちゃんはいない」と答えられたのです。「そんな嘘はあかん、、おばあちゃんは今そこで返事をしたんやからいない訳がないやんか、『おばあちゃんは今あんたらの相手はしてあげられない』と答えんとあかんの違う?」と言いました。もっとひどいのになるとこの間実際にあった話なのですけど、治療後に「先生何もしなかったやろ」と聞こえたので「うそをつくな、した、俺は絶対に鍼をした」と。「そんな嘘をついたらあかん、『鍼はしてもらったけど痛くなかったやろ』とか『気持ちよかったやろ』という風に言わなあかんやろ」と言いました。注射へ連れて行く時に「痛くないから」「何もしないから」と連れていく親がいますけど、これは絶対に間違いなのです。「身体のためだから我慢しなさい」「痛くないようにお医者さんに頼んであげるから」などのように言わなければいけません。頼んだけれどももしも痛かったのであれば、それは仕方ないのです。「何もしない」と言いながら注射をしたのでは、「何もしないといったのに」と嘘をついたことになりダメです。

 

 そのようなことで小児鍼の方へ話が行ってしまいましたが、声については子供の声は非常に参考になります。金切り声を上げているとかです。しかし、よほど特徴がなければあまりこだわらなくてもいいのではというのが、現在私たちがやっている臨床の実際です。臭いについては非常に体臭の強い方がおられます。強いからどうなんだということになってくるともうちょっとハッキリしない面があるのですけど、やはり熱を非常に持っておられるか冷えておられるかのどちらかです。大抵の場合は熱が強いです。特に卵臭いとかミルク臭いという感じの方です。胃が悪くてかなり遠くまで口臭がしている方や蓄膿でかなり遠くまで臭いのしている方は、やはりこれも熱があるのです。冷えの方の場合については、一瞬で忘れてしまうような臭いなのですけど「あぁ、向こうの世界が近いのかなぁ」(沈黙)。あまりに臭いがする場合には、寒熱に片寄りがあると覚えて頂く程度でいいでしょう。

 

 

  問診

 患者に質問して診察することです。まず主訴と現病歴・既往症は詳細にしっかり押さえてください。そして日常生活で当たり前の食欲・睡眠・便通や家族歴なども聞いておきます。東洋医学的には寒熱(自覚的・多覚的)や汗(自汗・盗汗)などに注意します。また西洋医学や他の治療院で受けた診断についても確認しておくことは大切です。

 しかし、ここで気を付けなければならないことは、患者さんの言葉は信用してあげなければならないのですが、うのみにしてはいけないということです。我慢強くて主訴以外の愁訴は言わない人や、大げさで何でもないくらいなのに騒ぎ立てる人、診断結果を間違って覚えている人や誤解をしている人、いつの間にか正しい言葉が間違った知識や間違った解釈に化けている人がほとんどです。「痛い」と言われるところに鍼を刺すだけでは治療にならないという証明でもあります。やはり独自性の持てる診察と照らし合わせながら、正確な病状把握をしなければなりません。問診には「人」を引き出すテクニックと、術者の人柄が大きな鍵となるでしょう。

 

 

 ここは私の非常に得意な分野でもあるのですけど、まず住所・氏名・年齢・職業からしっかり聞かなければなりません。後は主訴・愁訴・現病歴。何か思い当たる原因はないか?それから、大抵はこんな会話になります「腰が痛いんです」「いつ頃から」「ずっと前から」「ずっと前からってあんたは知っているけど私は知らん、一週間前でもずっとという人もいれば三ヶ月前でも五年前でもずっとはずっとや、どれだけずっとなのかちゃんと教えてください」。「えーっとね、ずっと」って分からへんやん(笑い)。ではこちらから「五年前は痛かったの?」「五年前は痛くなかった」「じゃ一年前は?」「「うん一年前は痛かった」「じゃ二年前は?」「二年前は痛くなかった」「それじゃ一年半前やんか、最初からそのように喋ったらええんやんか」(笑い)。このようにして情報をある程度「操作」ではなく「整理」していくことが大事だと思います。

 食欲・睡眠・便通それから女性の場合は生理なのですけど、ここは研修会と臨床室での問診の差になりますが研修会であれば若い女性でも生理の状態をそれも詳細に聞くことが出来ます。でも、これ治療室で聞けますか?聞けませんよね。まして高校生くらいの女の子にそんなこと聞いたら、無茶苦茶に怒られますよね。あとで怒鳴り込まれるかも知れないし(苦笑)。逆に二便については、あまり研修会では「昨日出ました?今日出ました?」くらいで深く聞かないですよね。しかし、臨床室ではこちらの方が聞きやすかったりします。それでどうするかといいますと、二便については喋ってくれませんから必ず聞かなければダメです。ひどいおばあちゃんになったりすると、「私は五日に一度しか行きません」「それは便秘やないの」「五十年来の習慣やから」と、これは冷えがきつすぎて便が外に出てしまうとぞーっとして、熱が抜けてしまって逆に苦しいからなのです。だから、そのおばあちゃんにとっては便が五日に一度で普通なのです。それで五日に一度で普通だと言われるのです。逆にお小水を一日に十五回以上行く人でも、「チョロチョロしか出ないから回数が多くなる」「それはあんた既に前立腺肥大やないの」って、ものすごく大切ですよね。だから二便については必ず聞かなければなりません。生理に関しては、必要があれば自分の方からどんどん喋ってくれます。あまりに「これは聞かれてまずいな」と思われる場合には、耳元で喋ってもらうか女性スタッフに聞いてもらうようにします。

 もう孫もおられる年代の方ですけど、うちの患者さんに脱肛ではなく膣が飛び出す方がおられるのです。男性の私には膣が飛び出すという感覚がちょっと想像できないのですけど、気持ち悪いでしょうし不都合も不都合でしょうね。それで婦人科へいくら通っても治らなかったので、旦那さんの肩関節痛が治ったのだからしばらく通うと言われたのです。通い始められるとそれまで手で押し込んでもなかなか入らなかったものが、押し込んだら入るようになってきました。そのうちに力を入れるだけで入るようになってきました。今現在は気を抜いているとポイッと出てきますけど、またおしりに力を入れると入ってしまうので日常生活には全く支障のないところまで来ました。それで、こういう話を男の私ではなかなか聞けないのです。だからこの患者さんが来られた場合には、女性スタッフが必ず行くようにとしてあるのです。今はもう状態として分かっていますし固有名詞さえ出さなければ大体何をいいたいか分かりますので、ここ最近では私が直接行ったりもしていますけど。

 女性への問診ということでもう少し追加しておきますと、ベッドが三台までの治療室であれば男性スタッフだけでも問題はありません。一人でやっているケースの方が多いですかね。助手が一人いたとしても、これはちょっと具合が悪いということが起こっても院長が駆けつければいいのです。例えば着替えに介助が必要だったり、今のように問診がどうしても他に聞かれては具合が悪いなどです。ところが、ベッドが四台以上になると駆けつけられないことがどうしても出てきます。ということで、ベッドが四台以上ある治療室では必ず女性スタッフを一人は入れておくことを覚えておいてください。

 話を元に戻しまして、患者さんの問診というものは信用してあげなければならないのですけど信用してはいけないという話になります(苦笑)。ついこの間あった話なのですけど、腰が痛くてたまらないと来院された方です。「何故そんなに痛くなったの?」「この間人の家へ掃除の仕事に行ったのだけれど、物をどかしているうちに鉄板を担いだら痛くなった」「おばちゃん鉄板担いだら痛くなるわなぁ」って喋っていたら、点板でした(笑い)。コタツかベッドの点板だったらしいです。これがいつの間にか鉄板に話が化けていたのです(笑い)。このように伝達の段階でも間違いますし、先程の「ずっと」という話もありますし病名を間違って覚えている人もいます。「これはどう診てもパーキンソンですよ」と告げたのですが、その方はパセテントだと言われるのです。「そんな病名知りませんよ」と私は辞書ももう一度調べてみたのですけど、「いやパセテント病だと言われた」お医者さんがそのように言ったのかも知れませんけど、これはパーキンソンだしこのままでは動けなくなるから」と説得をしたのです。この方は確か六十前の独身の女性だったと記憶しているのですが、年金をしっかりもらえるまでは独り身なので働かなければなりませんからたちまち働くためにはドーパミンを飲まなければならないので、パーキンソンとして病院へ行って薬をもらってくる必要があります。「鍼灸でももちろん治療は出来るのだけれど、即効性という意味ではホルモン剤を飲んだ方が絶対的に早いから、今の職業も辞める必要もないから病名を覚え直しなさい」と助言したのに、パセテントだと頑張られるのです。後で聞いてみると一年後くらいに動けなくなって、病院へ行ったらパーキンソン病ということで障害年金をもらわれたのか里に帰られたのか、とにかく働くことは諦められて生活をされているということを聞きました。それくらい頑固に病名を間違っている人とか、困るのが骨粗鬆症です。「骨粗鬆症があるから腰痛なんです」と言ってくる人がいますけど、そんなわけはなく骨密度が低下しているから折れやすいので気をつけなさいと言う意味なのにお医者さんに「骨粗鬆症だから」と言われると、もうそれで何もかもの病気が発生してきているのだと思っている人が多いのです。そういう意味で情報というのは「操作」をしてはいけませんけど、必ず「整理」をしてあげるべきです。

 口での説明というのは、もちろん大事です。大事なんですけど、今ここで私の講義にしてもそうなのですが話を聞いてもらってその患者さんに正確に知識が残るパーセンテージって、どれくらいだと思われますか?一生懸命喋っている側は半分は残っている、いや自分の病気だから必死に聞いているので75%くらいは残っているだろうと思っているのですが、なんのことはない2%くらいらしいです。「ここは覚えておこう」と集中して聞いている場合で10%くらい残るかも知れませんけど、それでもわずか10%です。紙に書かれているパンフレットを読んでも50%。色々な誤解などがありますから私たちが伝えたいことが100%伝わることはあり得ないにしても、その程度なのです。だからどうしても伝えたいというものは、書物なり説明書を書くなりして伝える努力も必要だと思いますし、どうしても患者さんから聞き出せないものはこちらから引き出してください。

 それでは時間がなくなりますので、次に進みます。

 

 

  病症の振り分け

 切診に入るここまでの段階で、第一回目の証決定を試みます。まず四大病型を消去法で絞り込みます。この「絞り込み」という作業は必ずここで確定しておかなければなりません。なぜなら最終段階で確認に経穴を触察したりするだけでも病体は変化し、正確に元々の寒熱状態が把握できなくなるからです。四大病型は標治法のパターンを決定するのにも重大な要素ですから、絶対に省略しないでください。

 次に大切な要素となるのが「どの経絡の変動が一番大きかったのだろうか」ということです。経絡の主る病症というのがあり、それを今までの診察から振り分けて配当し最も変動が大きいと思われる経絡が証の第一候補となりやすいのです。けれど、病症は病理を導き出すために大切なのであって、病症が多いから必ず証となるわけではありません。病症からその経絡を動かせば効果はあるかも知れませんが、病理が改善されなければ治癒には導けないでしょう。

 もう一つ注意しなければならないのがC血です。C血はさまざまな病症を引き起こしますが、C血病症があればすぐ肺虚肝実証あるいは脾虚肝実証となるわけではありません。局所にC血が発生したり、または体質的にC血を相当に維持していたとしてもその時点で肝にも充満・停滞して肝の働きを阻害していなければ陰実証とはならないのです。肝実になっていればC血だと解釈できても、C血があればすぐに肝実とは判断できないのです。このように書くと陰実は少ないかのように思えますが、陰実の病症は変幻自在なので絞り込み作業の時に「・・・か陰実か」と最低半分は陰実であり、現代の環境を考えても臨床ではもっと比率が高いので脉診も含めて見極めなければなりません。

 本当にC血として処理するかどうかのヒントですが、まず最初は病症を各経絡に振り分けてしまいます。そこから「これはC血として捉えてもいいのではないか」というものをもう一度拾い出し、その数が多くなれば肝実に振り分け直せば円滑に考察できるのではないでしょうか。

 

 

 

 はい、こういうことです。望聞問の段階で一回目の証決定をします。この時に大切なのが、四大病型を考えるということ。これは今日は話が出来ませんけど、標治法のパターンを決定することにも大きく関わってきます。この段階で判断しておかないと混乱をしてしまいます。後半に書いてありましたけど「なになにか陰実か」という二つにまで絞ることになります。

 まず大きな特徴として、陽実とは陽気が充満・停滞した状態ですから熱症状で発熱をしています。風邪をひいて熱がカッと出ているような状態です。38,39度の熱があって・汗をかいて・ハァハァ言って、水が飲みたいような状態が陽実です。

 次に陰虚は陰気が少なくなった状態、だから冷やす作用が少なくなったのですからやはり熱症状なのです。ただし先程の陽実とどう違うかというと、この場合は積極的に出てきた熱ではなく受動的に出てきた熱なので虚熱ということになります。ですから同じ熱症状でも、無茶苦茶に激しくはないのです。喉が渇いたりのぼせ症状があったり、時には顔が熱くなったりハゲている人なら頭が赤くなったり色々しますけど、ひどくはない。よくおられますよね、一杯飲んだら広ーくなっているおでこが赤くなっている人、これはお酒を飲んだために陰虚が進んでのぼせになっているのです。

 陽虚とはこの逆で、陽気が少なくなっている状態。ですから温める作用が少なくなっているので冷え症状です。「今日の具合はいかがですか?」と顔の近くに手を持っていくと、「うわっ冷たい、このおばあちゃんどうなるのだろう」というような、周りにいるだけで冷たくなるような人がいます。あのような方たちは陽虚の代表で、最近は地球温暖化なのであまりエネルギーを消費しないようにといわれているので冷房も昔に比べれば控えめですけど、冷房に当たるとすぐに寒くなるあるいは膝掛けがないと仕事にならないような女性は典型的な陽虚です。妊娠しない方のほとんどといえば言い過ぎですけど、かなりは陽虚によって身体が冷えているために着床しないのです。以前の患者さんですけど、あまりに身体が冷えているのです。昔は銀行で当時は病院に勤めていたのですけど、「嫁に出して三年経過するのに子供が出来ないでは親として悩んでしまう」と父親が連れてこられたのですけど本人は肩こりが治ればいい位に思われていたのですが、うまくその方は肩こりも冷えも治って、九ヶ月くらい掛かりましたけど「やるだけのことはやりましたし後はタイミングの問題ですよ」と言っておいたら半年後に双子を妊娠されて、無事に出産されたと言うことを聞きました。

 

 問題は陰実、C血です。体質的なC血は、女性はまず持っています。C(病垂に於)と書くか書物によっては「悪血」ととある場合もあるようですけど、要するに正常な働きをしなくなった血のことです。溜まっている粕(かす)ではありません。粕ではなく、正常な働きをしなくなった血のことです。川の流れで言うと、泥やヘドロに例えられるでしょうか?そこまで汚くなくても、澱んでしまったものだと思っていただければいいです。これは体質的に女性はどうしても持ってきますし、男性でも年齢が高くなれば持ってきます。最近は化学薬剤を使いますし化学食品を食べますから、避けろと言っても化学調味料は使ってしまいますからC血を持ってしまいます。ただし、C血を持っているから=(イコール)陰実になるわけではありません。まぁニヤリーイコールかも知れませんけど。陰実というのは、陰の部位に陽気が充満・停滞した状態、ですから基本的には熱症状になります。一番良い例はデップリ太ってきた中年のおばちゃんで、あれはどういうことかというと「子供を産んだから」と適当に自分に都合のいいことばかりを並べてこられますけど、年齢とともにC血が溜まってきて内熱症状となり胃をお釜に例えると下からどんどん炊かれてお釜も空だきになっては壊れてしまいますから空腹を感じて食べてしまい、どんどん食べると今度は便が出来るのですが内熱があるので乾かされてしまい今度は便秘になって、便秘になるとガスがたまるということもありますし熱は上へ上へと昇る性質がありますので肩こりがする・頭痛がする・腰痛がする、そのくせ「痩せたい痩せたい」と横着なことをいって口は達者になる。口の分はいいとして(笑い)、このようなのがC血をたっぷり持っている人の典型的な症状になります。C血が転落事故や交通事故や部活でのケガなどで一度に多量に出来ると、一気に多量にあるので陽実証と酷似します。通常の場合だと、熱量がこれよりは落ちますので陰虚証と酷似した症状になります。さらに熱が少なくなってくると、とうとう周囲の循環を阻害して表面は冷え始め陽虚証と酷似した症状になってきます。ただし、違いとしては中に熱を持っているので症状は陽虚証なのですが熱による便秘をしたりになります。ですから、C血そのものの症状というのは先程述べた中年のご婦人みたいな不定愁訴が一番分かりやすいのですけど、特有の症状というものを見極めるのが非常に難しいので現代の状況から見て「陰実証は半分はあるだろう」として、「陽実証か陰実証」「陰虚証か陰実証」「陽虚証か陰実証」と二つにまで絞り込んでしまうのです。午後からの実技でモデル患者を診察するのですが、「ひどい発熱はないから陽実ではないだろう」「のぼせているが足は冷たくないから冷えではないので陽虚でもない」「だからこれは陰虚か陰実に絞って進めていこう」、このような形で行っていくのがいいのではないかと思います。陰実証は常に頭から外さないことが大切だと思います。

 それでは、もう少し進めていきます。

 

 

  切診

 切診も四診法の一つなのですが、鍼灸を施すには特に大切な項目です。実際に病体に触って診察することですから、水が潤沢に巡っているかあるいは浮腫やC血など異常な片寄りがないかなどを量も含めて観察します。また経絡の反応が局部ではどうなっているのかを観察する切経も大切です。それに加えて大きな判定要素を握る次の二つは特に重要視されます。

 

 腹診(腹診点方式)

 脉診は小さな部分を微妙な触覚で観察するために、「特殊な個人芸だ」と非難されることがあります。これに対して腹診は大きな面積で客観性も充分にあることから、脉診のまだ熟達しない人たちにとっては重要な助言になるとともに、脉診のできる人たちにも脉診至上主義に陥らず脉状研究を進める補助羅針盤でもあります。詳しくは実技編を参照。

 

 脉診

 ご存じのごとく経絡治療は「脉診流」とも呼ばれるくらいで、脉診は診察と結果判定の主役であります。その情報量の豊富さとリアルタイムでの変化は、熟達が必要なものの代替品を考えられない便利さと絶対的な必要性を感じます。それだけに普段は脉診のみに頼らない姿勢がより大切ではないでしょうか。

 

 最後は望聞問切の切診です。体表観察ということで漢方鍼医会では切経や津液ということを、非常に重視しています。加えて腹診・脉診はまた回を改めてやっていくことになりますけど、これらの総合判断によっていよいよ次の段階で病理考察をして証決定をすることになります。




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