アレルギー性鼻炎に対する経絡治療

 

(漢方鍼医会)二木 清文

 

はじめに

 一口に「鼻炎」と言っても、その症状には反復性のくしゃみ・鼻閉・鼻漏と色々あります。一般的にはくしゃみと鼻漏がクローズアップされ鼻閉についてはあまり取り上げられませんが、患者にとっては息ができないのですから身体的には鼻閉が一番つらいでしょう。しかし、呼吸そのものは口から何とかできるものであり慢性喘息でも数日もすれば一時的な解消は必ずするものですから、主訴として来院するケースはほとんどありません。また鍼灸治療においても後頸部の緊張に対して施術することにより、持続力に差はあるものの比較的簡単に効果を上げることができるので、この文章でもこれ以上触れないこととします。

 アレルギー性鼻炎と言うことですから、これは当然ながら抗原・抗体反応によって鼻汁が過度に排出され、呼吸反射としてのくしゃみを連発します。西洋医学的解釈については多くの専門書がありますし、他の文章でも解説されていることでしょうからこれらについても触れないことにします。

 ただし、その解決方法を「抗原・抗体反応が起こらなければいいのだから」ということで両者を引き離すか抗原を攻撃するような発想が大半だと思われます。確かに当座の方法としては抗原から病体を遠ざけるしかありませんし、薬剤投与による科学的中和もQOLの立場からは必要でしょうが、どちらも根本的な解決策ではありません。まして「花粉が飛んでくるから花粉症が発生するのだ」と、木材を伐採してしまうなどは愚の骨頂です。「何故自然へ適合できなくなったのか」「自然へ適合するにはどのように身体へ信号を・気を伝えてやればいいのか」という発想からでなければ根本解決にはつながらないと思います。

 鍼灸とは身体を自然へ適合させるために手助けをする道具のはずです。筆者は「自然へ適合する」ためには鍼灸という道具を発明させた経絡を積極的に活用しなければならないといつも実践していますから、この文章も経絡治療の立場のみで、ここからは進めさせて頂きます。

 

漢方病理とその治療法

 漢方薬を処方するにはそのバックグラウンドとなる生理・病理が当然必要ですが、同じ土俵から発生してきた医学なのですから漢方薬だけでなく鍼灸においても生理・病理が存在していいはずですし、実際に行っています。この病理考察があるかないかで治療成績は大きく異なります。

 では鼻炎に対する病理とは、単純化して書きますが呼吸の原動力である宗気が足りないために鼻汁によって異物を体内へ侵入させないようにしているのです。何故宗気が足りないかといえば口から取り入れた五味を脾胃が腐熟し直接胸へ宗気を送り込むはずがうまく送り込めないためです。これは三焦でも上焦と中・下焦とでは働きが随分異なっていて、その交流がうまくいっていないからです。

 ここにアレルギーが加わります。アレルギーとは脾胃の働きそのものが低下して希薄な気血津液しか生成できない、肝の働きが落ちて血が充分に貯蔵できない、腎が津液を充分に貯められないか循環がおかしくなって余計なものまで貯め込んでいる、肺が気の循環を制御できずに巡り方が早すぎるか遅すぎるか、あるいは元々あったC血により全体のバランスが崩れて上焦と中・下焦の交流を悪くしているなど、個別には様々なものがあります。

 つまり、証に関してはその他の症状や経過とにらみ合わせて決定しなければならないので、特に有力な証はありません。治療ポイントとしては、上焦と中・下焦の交流点は膈兪ですから、背部施術の際には膈兪の硬結に対する施術を行うことです。経絡の流れを改善することが目的ですから、「硬さが取れる」こととは違いますので無理に突き通さないように注意してください。その病体に応じた衛気もしくは営気の手法で「流す」ことだけを目標としてください。

 

用鍼と標治法について

 筆者は全て瑚Iによる治療であり小児以外は顔面への標治法も行いませんが、用鍼については瑚Iでも毫鍼でも特に関係ないと思われます。アレルギー性疾患の場合にはあまり太い毫鍼を用いる方はおられないでしょうけど、反応のある部位を突き通さないことが毫鍼ではポイントとなるでしょう。

 標治法についても膈兪への施術を外さないという以外には特に変わったことをしないのですが、どうしても水鼻を早く止めたいという時には鼻翼の両端に円皮鍼や銀粒を貼り付けたことも過去にはあります。しかし、年頃の女性はこれらを嫌いますのであまり即効を焦らない方がいいと思いますけど。

 

後鼻漏について

 鼻漏には両側性と片側性が区別され、後鼻孔より咽頭に流下するものを後鼻漏といいます。副鼻腔炎とは違って後鼻漏は手術もできないため、鼻漏を絶対に止められる薬でも発明しない限りは事実上耳鼻咽喉科では手も足も出せない病気です。要するに鼻水が直接咽頭に流出し、喉にたまって痰のようにして口から吐き出さねばならない症状のことです。

 患者は直接鼻汁が喉に落ちていることを自覚しているケースと、全くと言っていいほど自覚していないケースがあります。自覚しているケースでは当然鼻汁の量が多いのですから口から吐き出す量も回数も多く不快感も相当なもので、一年中続く症状ですから花粉症などより遥かに悩みは大きいものです。自覚のないケースでは「時々風邪でもないのに痰を吐かなければならないんですよ」程度から、「朝一番は息ができなくて苦しくて目が覚めるのですが痰を吐くと楽になります」のようなものまで様々で、原因が鼻汁だとわかっていないのですからメチャクチャに薬を使っていることの方が治療の障害となるので服薬を中止させることがポイントでしょう。

 病理考察をしなかった時代には治療に苦労した症状で、風池に寸三を目一杯刺鍼したり鼻翼の両端に銀粒を貼り付けたり奇経治療などを試みました。どの標治法でも効果があったものとないものとの差が激しく、標治法による効果的なものは見つけられませんでした。鼻炎に限らずどんな症状でもそうなのですが、本治法と標治法は車の両輪とはいいながらもまず本治法がしっかりしていないと標治法は生きないものであり、本治法がピタリと決まっていたものには全身を流してやる標治法だけで後鼻漏も回復していたようです。現在はそれに膈兪への処置を加えることにより、回復時間には差があるもののそれほど苦労をする症状ではなくなりました。

 

小児の鼻炎

 最近は小児にも花粉症が発生し、当然アレルギー性鼻炎も様々な形で発生しています。小児自身が「鼻水が出て困る」というような訴え方をしないので過敏な親でない限りは症状が進んでおり、よほど鍼灸に信頼のある家族でない限りは病院を駆け回った後に渋々治療を求めてくるので症状はさらに重くなっている場合が多いですね。蓄膿があまりにひどくなっていると近くに寄るだけで臭いがし、切開消毒が必要ですからまずしっかり臭いをかぐことが失敗をしないポイントでしょう。

 小児鍼のやり方については個性がかなりあるので様々な記事を参考にされるといいでしょうが、共通して言えることは幼児以下では陰経の処置は最後に行うのみで陽経主体で施術していきます。筆者の場合には写真1、

写真2

のように小里瑚Iを持ち陽経を流注に従ってトントントンと叩いていきます。(写真2では瑚Iが当たっているのかどうかがわからないので大げさに表現していますが実際には手を伏せた状態で施術します)外見上は瀉法を施しているみたいですけど、「気を流す」ことのみを目的としていますから衛気の手法を施しているつもりです。手足の陽経が終われば腹部・背部もトントントンと施術し、最後に症状を中心に陰経の本治法を行います。小児鍼の場合には喉と鼻翼にも施術を行ってもいいでしょう。筆者のもっと詳しい小児鍼に対する考えと報告は、ホームページに講演資料を掲載してありますのでダウンロードしてご覧ください。

 さて治療効果ですが、症状の強さによっても違いますが概ね数回の治療でひどい症状は解消します。小児の治療で泣き所は本人の満足度ではなく親の満足度によって左右されてしまうことで、脉診やその他でまだ治療が必要だと告げていても途中で来院しなくなってしまい何度もやり直しをしなければならないケースが案外多いことです。それでも小児の治療はとても成績がよいです。かんむしや喘息と並んでアレルギー性鼻炎も数回後には患者さんの喜ぶ顔が目に浮かぶので、思わず心の中で「鍼灸に出会えてよかったね」と手を叩いている筆者がいます。若干不謹慎かも知れませんけど、営業成績で悩まれているなら患者さんから教えてもらうことが非常に多い小児鍼なので、積極的に取り組んでみられてはいかがでしょうか?

 

 

滋賀県彦根市高宮町日の出1406

http://www.myakushin.info

myakushin2001@hotmail.com




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