2006,3,12

本部入門講座

 

『奇経治療』について

 

二木 清文

 

 

  (司会、新井敏弘)はい、それでは三月の入門講座を始めていきます。今日は聴講の方が大勢おられますのでちょっとお話をしておきます。ここは入門講座といって、この部屋では自分の分からないことをどんなことでも質問してもらって結構です。「こんなことを質問したら恥ずかしいかな」などと考えず、どんなことでも質問してください。分からないことをなくし、先へ進んでいきます。

 今期はこれで最後の講義になります。そして、来月からはまた新しい講座が始まります。今期の一番最後には、標治法の中でも「奇経治療」を話してもらいます。よろしくお願いします。

 

 

 (二木)おはようございます。滋賀から来ました、滋賀漢方鍼医会の代表をしています二木です。二年間入門講座を受講されている方には、九月に肝実証ということで一度お目に掛かっているのですけど向こうの方では目立っていますからそちらからはよくお目に掛かっていることでしょうね。聴講の方は、ようこそ経絡治療の世界へいらっしゃいました。先程の福島会長の話ではありませんが、学校では「あーこれ治療」を推奨はされていないでしょうけど現実問題としてはやはりそれしか教えていないでしょう。

 いきなり話が奇経治療から別のところへ飛びますけど、今の名称は知りませんが私が学校へ通っている時には「臨床各論」という科目がありました。例えば橈骨神経痛とか座骨神経痛とかその他の病名になりますけど、西洋医学の橈骨神経の経路を知ってワレー氏の圧痛点を覚えてというのは大切なことだと思います。ところが治療法になってくると、「鍼はこれこれに」「お灸はこれこれに」となって最後は「適宜行う」これで終わりなのです。「こんなんで効くんかいな!」と今でもこれくらい跳ね返っていますから当時はもっと跳ね返っていたので、どうしても納得が出来なかったのです。「何センチ刺す」とか書いてあるのですけど、ラグビー選手のような大きな大きな人もいれば有名な芸能人で小さな人もいますし、そうすると何センチというのは全く根拠がない話だとすぐ分かりますから納得できなかったのです。そこへ出会ったのが、この経絡治療というものなのです。

 鍼灸の世界へ入ってこられた動機は色々あるでしょうけど「手足の先に施術して直接患部には触れずに治す」という魔法のようなことを心に描いておられた人もいることでしょう。あるいは「あなたの病気はこうだからこのツボを押しなさい、そうすれば治ります」では漫画に出てくるおじいちゃんみたいですけど、そのようなことを描いていた人もおられるのではないかと思います。でも、これは漫画ほどには行きませんが実際に出来る話なのです。それで「あーこれ治療」に陥らないために、これから奇経治療の話をしたいと思います。

 

 それでテキストに入る前に、この奇経治療でどんなことが出来るのかと奇経治療の限界について触れておきます。

 私は助手をしていた時代があります。盲学校を卒業した二十一歳から約二年間、三年間修行しようと思っていたのですが緑内障が急激に悪化し晴眼者の先生にこのままついていたのでは失わなくてもいい視力を失ってしまうので一年間早くお暇をしました。その約二年間何をやっていたかといいますと、明けても暮れても奇経の判定をしていたのです。奇経治療というのは補助療法です。

 午後には実技がありますけど、まず本治法というのがあってこれは絶対条件です。これは家でいえば大黒柱、もっと表現するなら一日で棟上げをしますけど屋根を張って壁も入れて最低限のライフラインを揃えて住める状態にすることなのです。先程の竹山先生の本治法・標治法の話が出ていましたが、これに対して標治法とはカーテンを付けたり裸電球ではなく綺麗な蛍光灯にしたり布団もちょっといいものにしたりあるいは趣味のものを置いたりと、生活にあればもっともっと便利になるものです。「どうしても必要にはならない部分」と、大づかみにして頂くといいかも知れません。でも、どちらも必要です。最低限のライフラインだけでの寝起きでは困ることがあります。奇経というものは補助療法で、さらにそれを補うものです。あるいは一時的に本治法を補助するものです。例えば玄関の立て付けが悪くなったので臨時にドアが滑る道具を付けるとか、裏口から出入りできるように物をどかせて整理するとかそのようなことです。しかし、最終的には家そのものを修繕して行かねばなりません。けれどこれがあるために非常によく助かるものだと思ってください。

 

 それで実例を挙げてみますが、今から一年半ほど前にただいま私の奥さんになっている人ですけど最初は助手として入ってきたのです。そのお母さんから突然電話が掛かってきて、「朝から頭が痛くて痛くてどうしても取れないから何とかして欲しい」というのです。私は滋賀県の彦根というところに住んでいるのですけど、奥さんの出身は舞鶴なのです。距離は直線だと100km位なのですけど琵琶湖がありますからぐるっと回らなくてはならないので200km位はあります。今朝からは子供を連れて帰省していますけど、自動車で休憩なしに走って二時間から二時間半は掛かります。そんな距離をどうやって治療するのか?さてここで出てきました、奇経治療です。

 「どのように頭が痛いのですか?」「とにかく痛いンだけど、全体が痛い」「それでは上の方が痛みますか?下の方が痛みますか?それとも輪っかが巻かれたような感じですか?と尋ねていくと、どうも輪っかが巻かれているような感じらしいです。ここである程度経絡を知っている人なら、ピンと来ますよね。一周ぐるっと回っているのは、帯脈です。大ざっぱな表現ですけど、帯脈というのは腸骨稜付近で腹部をぐるっと回っているように図示されています。古典によっては胸の方まで図示されているものもありますし、その他の部分にも分布しているとあるものもあります。まぁ頭まで帯脈が巡っているかどうかは別として、一周ぐるっと回っているような症状の時には帯脈を用いると効果があります。ですから、帯脈の主治穴は臨泣になるのでそこへ10円玉を張ってもらい、対になっているツボは外関ですからそこへ1円玉を張ってもらいました。後は肩こりがしていて、それも肩甲間部がこるとのことでしたからここは照海と列缺の組み合わせ、つまり陰U脈が効く箇所なので「ここもやっておかなあかんやろ」ということで指示をしました。今なら血圧が高いので、「これは急に血圧が上昇してメニエルの直前になっているな」と分かるのですけど、状況が全く把握できていなかった中での指示です。それで照海に10円玉を・列缺に1円玉を、あぁでもないこうでもないと電話で四苦八苦しながら場所を指示して張ってもらったのです。

 そして二時間後に電話を掛けてみると、「もうすっかり回復してパソコンをするのが嫌で書類を明日回しにしようと思っていたものを今打ち始めたところです」とのことでした。それで嫁さんにもらえた訳じゃないのですけど(笑い)、それでも関係はよくなったかな(笑い?)

 

 このように奇経なら遠隔治療も出来るのです。)奇経病症を把握して奇経グループを指示することにより行えます。このような技術を、助手時代には明けても暮れてもやっていたのです。それでこれから開業をされる方には「飛び道具」ともなります。今お話ししたように瞬間的に症状が取れますし、遠隔での指示も出来ます。このように営業としていい面が多々あるので、この奇経治療も身につけていけばと思います。

 私も担当となるのですが、この入門講座を二年間受講されてこられた方はもう一度受講されるのではなく新年度からは臨床家養成講座が始まります。そこではもっと深く補助療法を学習し、本治法はもっと醍醐味を持ったものとなり、さらには同じ「胸が痛む」といっても呼吸器もあれば循環器もあり肋間神経痛などもあるので頭や胸など身体各部の病症という形で横のつながりでの講義をしていき、その中でも奇経はどうなっているのかも行っていきます。

 

 資料が会場で配布されていますから、これが終わるまでもう少し耳がこちらを向く話をしましょう。

 私が助手をしている時には、治療室の二階に住まわせてもらっていたのです。今ならマンションというところでしょうが、徒弟制度じゃないですけどね。まぁ目も見えませんでしたから交通安全ということもありました。そうしたなら、夜に「あそこが悪いここが悪い」と電話が掛かってくるのです。それで明けても暮れても奇経グループの判定ばかりをしていましたから、症状を聞いただけで大体このグループになるだろうと分かるようになってきた頃から電話の向こうに指示するようになりました。その経験があったから先程話した嫁さんのお母さんへの指示も簡単に出来た訳です。

 それで夜の十一時にもなってから電話が掛かってくるのです。とても終了の遅い治療室でしたから、それも慣れない自炊をしていてちょうどオムレツを作っているところでしたね。電話で「あれはどうこれはどう」とやいやい言われますから、「頼むからガスだけ切らせてください」ってあれからオムレツを作るのが嫌になってしまったのです(笑い)。まぁこのような形で、奇経治療には思い入れがあります。

 では、テキストをまず読んでもらいます。

 

 

四、奇経治療

 治療の主役は本治法であり、本治法によって治療できない病症はありません。しかし、難経では数編が奇経の記述に当てられているということからも、奇経病症に対しては奇経治療を用いるべきだということです。

 奇経治療はあくまでも救急法・補助療法に分類され、持続力に乏しいのが残念なところではありますが、施術自体は簡便で驚くほどの即効性があり、奇経灸によって自宅治療さえ可能です。

 

1.奇経治療の概要

 「奇経」というくらいですから正経十二経絡とは異なった流注を有している奇経八脈が古典に記されています。「正経満oする時は奇経これを受け」とありますから、例え話にすれば大雨で洪水が発生しそうになったので普段はあまり使っていない貯水タンクへ臨時で雨水を貯えることにより洪水の危険性は一瞬で解消される現象を想像してください。溢れそうになっているものを奇経に退避させることにより正経の歪みが擬似的に解消されるわけで、その効果は瞬間的ですから、ぎっくり腰で全く動けなかった患者さんが簡単に起き上がったりするなど治療家までビックリするようなことさえあります。奇経灸を用いれば自宅で患者自身の手により苦痛を軽減し治療補助とすることができ、正経の歪みに対しても働きかけることとなります。

 しかし、擬似的に解消された歪みですから漢方はり治療の特色である「生命力の強化」が行われるわけではありませんので、奇経への働きかけを止めてしまうと再び歪んだ状態に戻ってしまい、弱点である「持続力がない」ことを露呈してしまいます。

 

 奇経治療は基本的に手足に分布している二つの奇経を組み合わせて用います。それぞれの奇経には該当する奇経病症がありますが、二つの奇経を組み合わせて用いるために「どちらが主でどちらが従か」を決めなければなりません。これが似たような部位や症状でも該当する組み合わせと序列が違いますから、取り組み始めた時にはなかなか手の掛かるものの古典をはじめとして各種の参考書が出版されていますので、自分なりに覚えてしまうことでしょう。慣れてしまえばほとんど反射的に決定できるようになります。また後述の奇経テスターにより「本当に該当しているのか」を確かめることができます。

 

 奇経グループと治療穴の対応を書き出してみます。

  ・任  脈(列缺)  −  陰 d 脈(照海)

  ・衝  脈(公孫)  −  陰 脈(内関)

  ・督  脈(後谿)  −  陽 d 脈(申脈)

  ・帯  脈(臨泣)  −  陽 脈(外関)

  ・足厥陰脈(太衝)  −  手少陰脈(通里)

  ・足陽明脈(陥谷)  −  手陽明脈(合谷)

 

 このうち、太衝−通里と陥谷−合谷の組み合わせは福島弘道氏の発案によるものです。同側になっていたり左右が入れ替わっているケースも中にはありますし左右交差というものもありますので、奇経病症やその他の診断により割り出したグループを簡単に諦めることなく追求する姿勢は大切でしょう。また奇経グループを重ねて用いるケースも珍しくありませんので、臨床追訴をお願いいたします。

 治療は異種金属(金と銀や銅と亜鉛など)を主穴・従穴の順で刺鍼し、病症の好転と脉の改善を度として、抜鍼は従穴・主穴の順で抜鍼します。奇経灸とは透熱灸で同じ経穴に連続で5・3や3・2など主穴と従穴で壮数に差を付けることで成立し、繰り返すことでより一層の効果が期待できます。

 

 

 

 はい、ありがとうございました。

 「私と奇経」なんて言うと作文の題名みたいですけど、大阪に宮脇和登という先生がおられます。大阪で『わかりやすい経絡治療』講習会の実行委員長をされたので、沢山集めたいと言うことで今ほど学校は多くないですから各校を回られて盲学校にも回ってこられて参加者を募られました。滋賀からも私の恩師になる古木という先生がちょうど福島弘道先生の本を用いておられて、本当は東洋医学概論の本を用いなければならないのですけど「この本の方が絶対的に分かりやすいから」と先進的な取り組みをされていたのです。それで三年生は治療院見学の研修の振り替えにして他にも希望者を募って大阪へ参加したところ、滋賀からは社会人を含めると合計十数名になったので「滋賀にも勉強会を組織してください」ということになったのです。それで三年間ほとんど毎月応援に外来講師で通って頂きました。

 私は一年目は参加しておらず二年目から通い始めたのですけど、是非とも夏休みの研修は鍼灸専門の先生のところで研修をしたいと希望を出していたのです。しかし、研修の申し込みをした時に私は宮脇先生と全く面識がなかったのです。一つ学年が上の先輩が前年に見学されていたのですけど、きっと断られるだろうという予想だったのですが、宮脇先生は「あぁいいよ」と二つ返事だったのです。それから必死に経絡治療の勉強をしたのです。「見学をするからには本治法くらいは出来るようになっておかんとあかんなぁ」と、大それたことを考えていたのです。先輩もいるし古木先生もいるから、三ヶ月あれば何とかなるだろうと何とか本治法くらいは出来るようになるだろうと、ものすごく大それたことを思っていたのです。

 でもね皆さん、出来ます。やってください。必死になってやれば、三ヶ月で臨床が出来るようになります。今はメールという便利なものがありますし電話がありますし、それで先輩を捕まえて分からないことを質問して解決していけば絶対に三ヶ月で治療室での臨床が出来ます。もう少し余談を話しておきますと、跳ねっ返りですから按摩の免許も同時に取得できる仮定だったので按摩をしてから鍼をするというパターンだったのですけど、本治法を入れた時と入れない時を試してみて患者さんに経過を聞いてみたのです。すると関西でやっている豚まんのコマーシャルのように、「本治法がある時」笑ってて「本治法がない時」泣いててみたいな感じで、当時の私がやった本治法でも本治法のあった時の方が持続力が圧倒的にいいので鍼にしても深く刺入する刺激治療の数は全体の治療量を考えて当然少なくしますから、刺激治療が少なくて持続力がいいものですから「これをやれ」と既にリクエストが来ていました。

 それで見学の時には、残念ながらまだ奇経治療までは学習できていませんでした。それで見学に入ってみると、後で磁石テスターについては説明しますけど症状を聞いて「この症状ならこのグループかな?」ということで磁石を貼って患者さんに身体を動かさせ、「痛みは消えました?もうちょっと?少しずらせます、あぁこれこれ、先生できました」と助手さんがやっていて、先生がパッと脉を診て「よしいいだろう」という風景がありました。そしてPM鍼といいますけど、これは銅と亜鉛の鍼ですが金と銀などでもよく、テープに貼り付けてあって皮内鍼を入れる要領で簡便に引っかけてタイマーを掛け、タイマーが鳴ったなら今度は奇経灸という順序でした。先生は本治法をされていますし標治法など他の患者さんに掛かっている間に助手さんが奇経をやって症状を軽くし、症状が軽くなっているところに本治法を加えるというスタイルでした。この奇経治療が分からなかったのです。点字ですから読むのが遅いのですけど、大阪までの一時間半の電車の中で必死に勉強したのです。

 

 奇経治療の理論についてはテキストに書いてあったように、水がたまってしまったのでちょっと別のところへ移すようなものだと思って頂ければ結構でしょう。水を別の場所へ移すと正常な値に戻りますから擬似的に回復します。この「水を普段使っていない貯水タンクに貯めて」という表現なのですけど、これはどうも大阪的発想だったみたいですね。大阪は土地が低いので大阪湾からの高潮が昔はよくあったらしいのですが、大阪の地下には貯水タンクが埋めてあるのです。普段は空っぽで高潮が発生するとそのタンクに入れてしまうのです。そのようにすると洪水が防げて、台風が過ぎてから徐々に水をくみ出すらしいのです。それを想像して書いたのですけど、ここまで説明しなければダメだったかもですね。要するに擬似的にしかも瞬間的に問題を回避させて、十二経絡が整ったように見せてしまう方法です。「見せてしまう」という表現は、そのままの意味です。欠点としては、残念ながら持続力がありません。

 飛び道具の面については先程お話ししましたけど、電話の向こうからでも治療が出来ます。苦痛程度のものであるなら、本当にそれが治ってしまうのです。腰痛でも、歩けなかったものが10円玉と1円玉を貼ったままで何とか歩いてもらって治療室まで来てもらったことがあります。しかし、残念ながら奇経への働きかけを止めてしまうとその効果が取れてしまいます。それからもう一つの欠点としては、同じような症状でも例えば腰痛なら仙骨部が痛むのか膀胱経二行線あたりが痛むのか曲げた時痛むのか延ばした時に痛むのかなどで、対応する奇経グループが変わってくることなのです。よく理解してしまうと何ということはないのですけど、これが最初のうちはなかなかわかりづらく奇経治療に取り組み初めても皆さん「もうなかなか当たらないから嫌だ」ということになるのです。宮脇先生も三回くらい挫折したと話しておられました。大阪には城戸勝康という有名な先生がおられたのですけど、この先生に師事してもダメだったと話しておられました。余談ですけど、この城戸勝康先生が本会に在籍しておられる森本繁太郎先生の検定試験の時の試験官で、「翳風に鍼を刺せ」と指示されたので一寸三分だったのかを三秒と掛からずにズポッと刺したものですから凄い刺激で、「おぉっ!お前はうまい合格」となったらしいですけど(笑い)。あの話は、忘れられないですね。余計な方へ、話がいってしまいました。

 しかし、この奇経治療も宮脇先生のところへ通っている間に必死に勉強をして、それから今より少し見えていましたから私はずるいのでどのツボにテスターを貼っていたかを見ていて「この腰痛には、これ」「こちらの腰痛には、これ」と絶対的なケースに関してはメモをしておきました。そうしたなら、すぐできるようになりました。だから「きっかけ」と、技術をどのように「かっぱらう」かです。さらに、それを成長させていくことです。

 それでは、テキストの続きをお願いします。

 

 

2.奇経テスターと取穴法

 奇経テスターは磁石を用います。市販の健康用品でいいのですが、大抵はN極のプラス面がブツブツにS極のマイナス面はツルツルになっているので、突起の数が多いものを用いると視覚障害者でも扱いやすいでしょう。プラスは主穴にマイナスは従穴になりますので、粘着テープによってテスターを固定すれば実際の動作を患者自身にさせて症状を確かめることもできます。

 

 奇経治療に用いるのも五行穴・五要穴ですが、正経治療と相当に違っている場合の方がほとんどです。奇経の取穴は実的所見が目安となりますから、強い指圧により圧痛を確かめても構いません。ただし、圧痛ばかりを求めていると肝心の本治法の微妙な取穴に支障を来たしてしまいますので、コツとしては阜撃フ触診でも書きましたが同じ指先でも目的ごとに微妙に診察するポイントを変えておくことだろうと思われます。あるいは母指で探るようにするのも一つの方法です。優れた治療家の条件の一つは、用途に応じて触察法と指圧を瞬時に的確に切り替えられることだと考えています。

 

 

 奇経テスターについては、先程もいいましたように実技でやります。それで取穴についてなのですが、私のホームページ『にき鍼灸院』の中に、「治療ポイントあれこれ」というコーナーがありその中に奇経のそれぞれのページが作成してあって、今回はそこへビデオも付けました。講師に燃えていて入門講座の人たちのために作成したといえば聞こえがいいのですけど、実は患者アピールなのです(苦笑)。

これから患者さんが電話の向こうで「何とかしてくれ」ということがあるかも知れませんし、取穴をより正確にやってもらうためにビデオを付けました。ということで予習をしてきていただいた方には後がスムーズに行くでしょうし、忘れたならまた閲覧してください。それでアクセス数を上げてください(笑い)。

 ここで大切なことですけど、経絡治療とは普通ほとんどの人が「軽い」治療だと思っていることなのですが、「軽く触る」「軽い治療」決してそれだけじゃないのです。私の場合には瑚Iのみですから深く鍼を刺すことはありませんけどドーゼは関連してきますし、触察については軽く触るだけでなく強く触るべき箇所は絶対に強く触らなければいけません。お腹だって気・津液・血と深さがありますし、脉診だって浮・中・沈と触りますし、ツボを触る時にも強く触らなければならないものは強く触るべきだと思います。それで実技の中でやりますけど、実は私は宮脇先生の奇経腹診が覚わらなかったというのか、覚える必要がなかったのです。手は開いてしまいますけど、奇経で使う足のツボは両足を付けてしまえるので、両足を付けると内側から照海・公孫・太衝・陥谷・一つ飛ばして臨泣・そして申脈と、指で慣れれば五秒くらいで全てが順番に押さえられるようになります。その時に「奇経は実適所見だ」ということを聞いていましたし実際に圧痛を探しておられましたから、そのように探ってみたのです。すると「これは圧痛を目安にすれば奇経腹診をしなくても、病症と圧痛診断だけでほとんど奇経グループを決定できることを発見したのです。

 それであくまでも助手時代の私の基準ですが、奇経グループの選択は3分以内に行う。かなり効果があるのだけれど3分で確定できなかった場合には、5分まで延長する。それでも、5分経過して確定できなかった場合には奇経治療を止めてしまいます。これは患者さんの信頼をなくしてしまうからです。でも、それくらいで出来るようになります。

 忘れられない事例があるのですけど、十六歳離れているから当然なのですがお姉ちゃんは幼稚園の先生で弟は幼稚園児で(笑い)、そのお姉ちゃんがどうにも腰が痛い。最初は私が奇経を選んだのですけど、大体は大丈夫ということで五分のタイムアップにもなったことから、私の基準でこれ以上はトライしないことにしました。「90%は痛みが取れているのでこれで行きましょう」と先生に伝えると「もう少し調べよう」ということで、先生自らが10分か15分くらい調べ続けられました。そうしたなら、突然幼稚園の先生は泣き出したのです。腰の痛みが散々病院へ行っても取れなかったものが鍼灸院でもやはり取れないのかという感情が吹き出してきたのでしょうね。あれはとても印象的でした。奇経治療でもそうですし本治法を含めた一連の治療でもそうなのですけど、いかに継続してもらうかということが大切なのです。

 話を元に戻しまして、優れた治療家の条件とは瞬時に目的とする圧力に切り替えて触診できることです。軽く触らなければならない時には軽く、重くすべき時には思い切りよく重く、中間はソフトに、それからC血を触診する部位・奇経治療の取穴をする部位・本治法の取穴をする部位・標治法で衛気なのか営気なのかを探る部位と、微妙に触診する部位を変えておくことがコツではないかと思っています。ですから、指導の先生に「軽くしなさい軽くしなさい」といわれているでしょうけど「それでは自分は分からないから」と諦めずに、最初は分からなければ分かるところからやって頂ければいいと思うのです。特に聴講の方は午後の実技でビックリされると思います。指導の先生達は軽く触られますから、「そんなもので分かるのか」と。

 会場に来て視覚障害者の先生が多いと思われたというよりも視覚障害者を初めて見た人が多かったかも知れませんが、私のことをもう一ついいますと点字を触っていましたから触覚が・触ること自体には慣れていたのです。残念ながら晴眼者は鍼灸学校へ入って初めて人の身体を触ったことでしょうし、触ること自体が視覚障害者の立場からすれば全然ダメです。うちへ助手に来た人でも、まず触覚を鍛えるのに半年はかかります。ちゃんとツボが取れるようになるには、一年かかります。でも「軽く触ること」だけに執着しなければ、そんなに嫌になるような修練ではありません。では、次へお願いします。

 

 

  (新井)ちょっとペースが速いので、ここまでで分からないことが出てきている人がいるかも知れません。もし分からないことがあれば、質問してください。

 

 (林)奇経の治療の時間的なことなのですけど、病症を見てテスターで確認してからPM鍼をプラスとマイナスに添付します。その場合ですが、例えば劇的に症状が改善したとしたなら、すぐPM鍼を抜いてもいいものなのでしょうか?それとも、もう少し時間をおいた方がいいものなのでしょうか?

 

  (二木)これは次の項目で出てくるところなのですけど、まずテスターの効果は瞬間的に現れてきます。それでグループが決定できたならマジックで印を付けて、テスターはすぐ取っても大丈夫です。つぎにPM鍼を主穴・従穴の順番で入れるのですが、入れるとまず脉が締まっていきます。次にある一定のポイントを過ぎると今度は脉が開いてきます。サインカーブを描いて頂いたならいいと思うのですけど、開ききったなら今度はまた脉が締まっていきます。それで何回目かの締まりきったところで、従穴・主穴の順番で抜鍼します。当時は、当時はというのは私は現在治療室で奇経治療をやっていないのですけど、これは手間が掛かるということと現在の治療法が素晴らしいので組み込む必要性がないからなのですけど、当時はタイマーを掛けていて5分か7分くらい平均は5分でタイマーが鳴ったら患者さんのところへ行き、脉が締まったのを確認して抜をしていました。

 

  (林)もう一点なのですが、PM鍼を入れても症状が改善されない場合がありますよね。これも5分くらいを目安として改善されなかったら中止をするのですか?

 

  (二木)ぶっちゃけた話をします。テスターはものすごく効果がありますがPM鍼は効かないのです。何故かというと、テスターは大きいのです。ツボをかぶせるようにガバッと当たるのです。ところがPM鍼は細いので、本当のツボへ当たっていることの方が少ないのです。テスターではあれほど効いていたのにPM鍼にしたなら効いていなかったということが、実はかなりあります。それで、これを補うのが奇経灸なのです。お灸の場合にはある程度の面積がありますから、今度はまた効果が現れてきます。これも奇経治療の弱点の一つですね。

 

  (清水)先程遠隔地への指示には10円玉と1円玉を貼らせたと話されましたが、教科書には異種金属を用いるとあります。これは必ず種類の違うものでなければならないのでしょうか?

 

  (二木)はい、そうです。理論的にいうと、漢方医学にイオンを持ち出さなくてもいいのですが異種金属を用いるとイオン差が発生します。そのイオン差によって経絡を奇経の方へ誘導していっているのです。イオンパンピングというのをご存じですか?ダイオードの入っているコードがあって、ダイオードがあると必ずプラスからマイナスへ流れるようになります。それでイオンパンピングの一番効果的な使い方は火傷で、火傷をした部分にアルミ箔を当てて三陰交や合谷などに鍼を刺してイオンパンピングのコードをつないでツボの方へイオンを引っ張っていってやると、瞬間的に火傷が治るのです。イオンパンピングの場合は、外部のコードでイオンを引っ張って経絡を動かしてやっているのです。奇経の場合は身体の内回りでこれをやっているのです。簡単に説明すればこのようなことで、だから異種金属でなければならないのです。

 

  (新井)今、異種金属という話が出たのですけどテスターというのは磁石で、磁力によってプラスとマイナスを作り出しています。それで遠隔地であるなら二木先生がやられたように10円玉と1円玉でやるでしょう。これは誰でも持っているからです。これがお灸に変わってくると10円玉の方には5壮・1円玉の方には3壮と、お灸の壮数の刺激量の差によって流してやります。

 

  (聴講生)10円玉と1円玉の質問の続きみたいになりますが、先程外関と列缺には1円玉を張られたと言われたのですがどのような決まりで1円玉だったのでしょうか?

 

  (二木)取穴には10円玉を・従穴には1円玉をとします。主穴には、よりイオン化傾向の強い金属を持っていくのです。従穴はイオン化傾向の小さいものになります。ですからPM鍼というのは銅と亜鉛の鍼なのですけど、銅がどちらで亜鉛がどちらでといっても覚えられないので「プラス鍼」「マイナス鍼」の略なのです。それで、たまたま嫁さんのお母さんの場合には臨泣と外関の組み合わせだったので臨泣が主穴なので10円玉、外関が従穴で1円玉だったわけです。それが例えば首筋から肩こりがひどいとなってくると、これは陽維脈ですから外関と臨泣の組み合わせになっていきます。すると今度は外関に10円玉で臨泣に1円玉となっていくわけです。

 

  (新井)今出てきた質問はとても大切なところなのですけど、テキストの中に表があるように任脈と陰U脈のグループ、つまり列缺と照海の組み合わせとか、あるいは公孫と内関などのグループそのものは絶対に変わらないものなのです。列缺と照海というグループがあれば、どちらかが主穴になってどちらかが従穴になります。照海にPを貼れば必ず列缺にMを貼ります。照海と公孫などというグループは絶対にありません。公孫を使うなら内関、後谿が入ったなら申脈、臨泣が入ったなら必ず外関というグループになります。「さて主穴と従穴はどちらがどちらになるのか」を臨床ではテスターで調べるのです。

 

 

3.各奇経の着眼点と主な病症

 最後に各奇経の着眼点と代表的な病症を列挙しておきます。ただし、あくまでも代表的な病症であり病理との絡みから「この病症であれば必ずここに該当する」というものではありませんから注意して下さい。

 

陰維脈

  病症着眼点−心臓神経症

  病症参考例−心下部のつかえ、腹痛、生理通、食物が消化しない、裏急後重、心臓病。

 

  (二木)一つ一つに解説を付けていきます。あまり追加はないのですけど、心臓が苦しい時に用います。本当に心臓が苦しい時の特効穴は小腸経の井穴である少沢に刺絡を行うのですが、そこまでは苦しくなく時々グッグット来るような場合、あるいは動悸でもドンドンはしない階段を駆け上がったように時々してくるようなひとは、この内関と公孫の組み合わせになってきます。あるいは子供といっても幼稚園児くらいでしたが、風邪で心臓が踊っているのが目に見えるくらいの時にこのグループを取ったことがあります。これは一回か二回だけで、5分くらいテスターを貼っただけではがしてしまいPM鍼もお灸もしませんでした。それくらい奇経治療でも小児には効果があります。

 

 

衝脈

  病症着眼点−心臓の痛み(狭心症・心筋梗塞など)

  病症参考例−下痢、生理痛、胃腸疾患、脱肛、脇腹張り満ちて痛む、心臓病、裏急後重、のどにつかえる、足の冷え。

 

 

  (二木)どのように心臓の痛みが違うかと言えば、こちらの方は「慢性的にえらいです」と言われるようなタイプです。ここにも狭心症と書いてあるように、慢性的に心臓が悪いものです。もう一つ、公孫ですから脾経の流注上の膝関節痛によく用います。

 

  (新井)今は内関と公孫のグループについて話してもらったのですけど、それで内関を主穴とする陰維脈の項目をよく読んでみると結構上焦に関するものが多いです。生理痛はありますけど心下部の支えや心臓病・裏急後重ですね。このような場合には、内関を主穴とすることが多いです。もし内関と公孫のグループで、公孫を主穴とする衝脈を使いたい場合にはここにも心臓の痛みがありますけど、主に生理痛・胃腸疾患・脱肛などがあり、あるいは下肢の冷えも入っていますのでこのような場合には足にあるツボの公孫を主穴として用いてくるようになります。では、内関と公孫のグループで「足の冷えがありますか?」「足の冷えがあります、生理痛もひどいです、胃が痛みます」もしくは下痢をしているなどとなれば、公孫が主穴ではないかと絞ります。公孫と内関のグループで、まずテスターで公孫にはプラスを内関にはマイナスで調べ、次に公孫にはプラスのP鍼を・内関にはマイナスのM鍼を施術していくことになります。

 

 

陰ケ脈

  病症着眼点−腎経・胃経病症、下焦の病。

  病症参考例−婦人血の道症、排尿障害、下腹部脹満、足の裏がほてる、便秘、下痢、嘔吐、のどがつかえる、難産。

 

 

  (二木)照海と列缺の組み合わせは、非常に範囲が広いです。それでここには書かれていなかったのですが腰痛、特に腎兪から大腸兪に掛けての腰痛はどんな場合でもよく該当してきます。また肩甲間部の凝りについても、該当する場合がよくあります。

 

 

任脈

  病症着眼点−肺経病症(呼吸器病、皮膚の病など)

  病症参考例−婦人科全般(不正出血、産後の精神障害など)、諸々の腹のしこり、大小便に血が混じる、咳をして痰を吐く、膀胱疾患。

 

 

  (二木)列缺と照海の組み合わせになりますが、ここに書いてある通りお腹に色々としこりのある人へ取っていました。最近はあまり来院されなくなっていますけど、私が助手をしていた時代にはお腹にしこりのある人がよく来院されていました。食べ物がよくなったからでしょうか、交通手段がよくなったからでしょうか、冷暖房がよくなったからでしょうか、最近あまり見かけませんがとにかくお腹にしこりのある人には取っていました。それから胸の表面が痛む、|中が痛むという人にも取っていました。

 

 

陽維脈

  病症着眼点−慢性的な手足の痛み、浅い病症。

 病症参考例−上下肢痛または麻痺、頭痛、耳の病、目が腫れる、寝汗、股関節疾患。

 

 

  (二木)陽維脈は先程もお話ししましたが、肩こりによく効きます。「うわっこんなに凝っている」というものがポンと落ちてしまい「あれ?私の肩盛り上がっていなかった?」と言われたこともありました。ただし、現在の臨床では本治法のそれも一本目の鍼です。本治法で病症の80%は取らなければならないのですが、さらに本治法の一本目で適否の50%は決まると思っています。その一本目で劇的に改善できるよう、皆さんなっていきましょう。

 

 

帯脈

  病症着眼点−中枢的な要素、深い病症。

  病症参考例−脇腹が痛む、目眩立ちくらみ、脳溢血後遺症、深部の筋肉痛、難聴、頭痛、胆経上の痛み。

 

 

  (二木)これは何度も出てきていますね。付け加えるとするなら、輪っかを描くように痛むものに有効です。他には胆経上の痛みがなかなか取れないというものにも用います。ただし、現在の漢方鍼医会では脾経を衛気の手法で補い胆経を営気の手法で処置する脾虚肝実証が行えるようになってからは、それほど臨泣と外関の組み合わせを持ち出したいと感じたことがありません。

 

 

陽ケ脈

  病症着眼点−限局性の痛み、手臂痛(筋の痛み)浅い病症。

  病症参考例−項腰背こわばり痛む、熱病による頭痛、四肢関節痛、顔ばかり汗をかく、手足の麻痺。

 

 

  (二木)これは申脈と後谿の組み合わせになるのですけど、これをひっくり返した後谿と申脈の組み合わせとともに非常に範囲が広いです。それで腰痛でも仙骨部が頑固に痛むものに効果があります。ただし、仙骨部の痛みに関しては陰U脈と重なっています。この鑑別を奇経腹診や圧痛診断で的確に行わなければなりません。他には、肩こりにもよく効きます。

 

 

督脈

  病症着眼点−中枢性・慢性的なもの、深い病症。

  病症参考例−上下肢の引きつり及び麻痺、寝汗、目の病、脳溢血による言語障害、ふるえ、高血圧、項腰背のこわばり痛む、膝や足首が腫れ痛む。

 

 

  (二木)後谿 ー 申脈も先程述べたように非常に範囲が広いのですけど、腰痛にも効果がありますがこれもやはり肩こりにいいです。それから肩甲間部でも脊柱に近いところ、あるいは首の凝りに督脈を用いることが多いです。ですから、鍼灸院はやはり肩こりや運動器疾患が多いので督脈はよく用いていました。

 

足厥陰脈

  病症着眼点−肝・胆・膵臓疾患に関係、ストレスからくるもの。

  病症参考例−膵臓疾患、肝・胆のう疾患、婦人科疾患、膝の痛み、内分泌疾患、心下満、糖尿病、胃十二指腸潰瘍、頭痛、目の痛み。

 

 

  (二木)これは途中で説明しましたけど、福島弘道先生が考え出された太衝と通里の組み合わせになります。これは太衝を主穴とするケースを表しています。名前がなかったのですけど、宮脇和登先生が「何か名前がないといかんやろ、私が命名者になろう」ということで名付けられたものです。これは奇経の簡便表を作成された時に同時に命名されたのですが、最初のワープロを担当したのは私で今でもその時のフォーマットを用いておられますね。この太衝と通里の組み合わせが出てきたのは、八総穴には陰経では腎経・肺経・心包経・脾経と存在しているので肝経と心経にも何かがあるのではないかというのが発想だったでしょう。これも最初からそのように探られたのではなく、いくら治療をしても曲泉付近の痛みが全然取れなかったケースがあったらしいのです。どうしても患者さんを楽にしてあげたいということで、気が付いて太衝と通里で試してみたらうまくいったというのが太衝と通里のグループが誕生したきっかけとのことです。他には肝臓病で、肝硬変は別でしょうけどかなり肝臓数値が落ちるという話を聞いたことがあります。

 

 

手少陰脈

  病症着眼点−陰維脈病症と類似。

  病症参考例−心下満、足厥陰脈で取れない病症。

 

 

  (二木)ここに書かれてあるとおりです。他には頑固な全くひねれないという腰痛に用いたことがあります。ただ、この通里が主穴で太衝が従穴の組み合わせは、頻度が高くありません。

手陽明脈

  病症着眼点−上焦の病症。

  病症参考例−歯痛、歯齦炎、乳汁分泌不足、乳腺炎(乳房上部)、顔面痛及び麻痺、その他大腸経病症。

 

 

  (二木)太衝と通里の組み合わせを考えられてからのことでしょうが残りは胃経と大腸経に配置がなかったということで、ついでではありませんけど研究の末に「これも使えるのでは」と出てきたのが合谷と陥谷の組み合わせ、あるいは陥谷と合谷になります。それで私はこの合谷と陥谷の組み合わせを、頑固な大腸経の痛み程度であまり使ったことがありません。

 またホームページを閲覧して頂きたいですし、これから臨床家養成講座へ上がってこられる方はスタッフ合宿に参加された先生方も驚かれたことなのですけど、上肢の症状のほとんどは肩甲骨周囲の硬結から来ています。西洋医学的にいえば、硬結によって神経圧迫が発生しているということです。肘でもそうですし、最近はキーパンチャーなどおられませんが手首の痛みを「腱鞘炎だ」といっていますけどまず本当の腱鞘炎などありません。99%ありません、肩甲骨周囲だけで回復できます。そのようなことで合谷と陥谷の組み合わせもほとんど取ったことがないのですけど、大腸経の頑固な痛みには使ったことがあります。

 

足陽明脈

  病症着眼点−中・下焦の病。

  病症参考例−歯痛、歯齦炎、乳腺炎(乳房下部)、大腿前面痛及び麻痺、膝痛、右下腹部痛、その他胃経病症。

 

 

  (二木)この陥谷と合谷の組み合わせはかなりあります。ここにも出ていましたが、膝の痛みや大腿部前面の痛みがあります。今ならムノ治療でやるでしょうが、高校生の大腿部前面が痛むというものに用いたことがあります。

 それからこれは私がやったことではないのですけど、助手時代は大阪の勉強会へ付いていっていましたからその時に出産をされた女性鍼灸師がお乳が張ってしまって出なくなったとのことで、「その時には合谷と陥谷もしくは陥谷と合谷だが陥谷と合谷の方がいいよ」と聞いていたので、自分でお灸をしたなら途端に吹き出してきたという話をされていたのが印象的です。

 

 これで一連の話は終わりです。質問が出たならその時に答えればいいだろうということで特に「まとめ」は考えてこなかったのですけど、これから開業をされる方は奇経治療も勉強された方がいいと思います。これは非常に武器となります。視覚障害のある先生であればテスターだけでも構いません、腰を動かすと痛む患者さんにテスターを貼るだけで痛みが取れ、それも手足だけで取れるなら「この治療を信頼しよう」ということになります。言い方は悪いですが「客寄せだるま」として使っても、その間に実力を蓄えればいいのです。そんなに難しく考えなくてもすぐ取り入れられますから、チャレンジする価値は充分にあります。

 

 

  (清水)奇経テスターというものはどういうものなのか、説明ください。

 

  (二木)単純に磁石です。薬局で売っているもので充分で、ほとんどの場合はプラス側に突起が付いているので自分で半分はひっくり返してマイナスのものを作っておきます。突起のあるプラスを主穴としマイナスを従穴として貼っていきます。

 

  (馬場)奇経治療では臨床の場面で効きやすいものと効きにくいものがあるのかどうかと、あるとしたなら脉状で判別できるものなのかを教えてください。

 

  (二木)基本的に効かないものがありません。ただし、不適応なものはあります。例えば咳を押さえて欲しいとか風邪による発熱を押さえて欲しいとかを奇経治療して「家に帰ってお灸をしてください」では、胃が痛くて七転八倒している患者を目の前に煎じ薬を作り始めている行為と大差がないので、このような時には鍼の方が圧倒的に即効性があるので発熱病症に対してはあまり適当ではないでしょう。それから糖尿病でケガをさせてはいけない人とか、末期癌の場合には状態がどんどん変わりますから病症が変わってしまうと奇経グループも変わるのであまり積極的にはお奨めできません。でも、効かないものは基本的にはありません。

 

  (新井)今話されたように、奇経というのは病症によってグループを変えながら行っていくものです。ただし、治療家ごとに「この病症には必ず奇経を用いたい」というものがあるものです。例えば私の場合では、生理痛には照海と列缺のグループを使います。小林先生だったら、何を使いますか?

 

  (小林)私も奇経治療はあまりやっていないのですが、唯一が妊婦さんが後期になると座骨神経痛が出てくるので妊婦さんの腰は触れませんから陽U脈や、胆経上に痛みのある場合には帯脈などの使い方をしています。

 それで今日の講義の中で奇経治療は持続力がないと出ているのですけど、私が新井先生のところへ弟子入りさせてもらっていたちょうど今くらいの時期にものすごく血圧が高くなられた患者さんがおられて、ふらふらになって来院されたのです。治療室ではもちろん本治法をして、補助療法として奇経を教えて帰宅してもらったのです。その方は二十年近く新井先生のところへ通院されていますけど、降圧剤など一切服薬されずに血圧値もよくなり脉状もよくなっています。降圧剤を飲まないということは心臓の力も弱めずに健康でおられます。ですから、民間療法では患者さんに教えて自ら行ってもらうものもあり、奇経治療もそのような意味でとてもいい治療法だと思っています。

 

  (隅田)奇経治療ですが、私も段々とやらなくなってきています。一言でいえば、痛みに有効です。痛み以外については、私はあまりやらないです。痛みの中でなかなかしつこく取れないものがあれば、奇経治療もやってみるというところです。色々な関節の痛みもそうですし、新井先生が話されたように生理痛など内臓の痛みもそうです。胆石や腎石であったとしても、試してみる価値があると思います。ですから、二木先生が話されたように咳だとか発熱病症だとか麻痺だとか痛み以外の様々な苦痛がありますけど、私の場合にはやっていません。

 

  (新井)隅田先生も二木先生も「今はやらない」という言葉が出ているのですけど、初診時のまだ本治法は自信がないけど患者さんの痛みをどうしても取らなければならない時には必死で奇経治療をやったのです。本治法に自信のない時代には、本治法で勝負しようとは思えないのです。ただ、本治法に自信が出てきたなら奇経治療よりも本治法で病症を取りたいのです。取れるようになるのです。それで私も一番最初に入門した時や弟子入り時代や、開業当初には奇経治療を相当にやりました。相当に助けられました。だけど、今は何故かやりません。そういうものなのです。けれど、これは知っているとものすごく便利です。

 

  (関野)主穴と従穴ですが、同側とか交差とかあるいは左右交差など色々と取り方があると思うのですけど、ポイントとはどのようなものでしょうか?

 

  (二木)これは宮脇和登先生が「定側」と呼ばれていましたけど、組み合わせごとに述べていくと照海(左)・列缺(右)、公孫(右)・内関(左)、太衝(左)・通里(左)、外関(右)・臨泣(左)、後谿(左)・申脈(右)、陥谷(左)・合谷(右)になります。簡単には脉位側だと覚えればよく、反対になっているのは申脈と陥谷だけなのです。

 

  (新井)脉位側というのは、脉診をする時に右手では肺・脾・命門、左手は心・肝・腎となっています。そこの経絡に所属している経穴は例えば列缺なら肺は右手に脉がありますから右が脉位側ということになります。

 

  (聴講生)最初の身内の方には帯脈と陰U脈と重複して施術されていましたが、重複して取ってもいいものなのでしょうか?それとも重複してはいけないケースがあるものなのでしょうか?

 

  (二木)特に法則性はありません。ただし、無秩序に全部入れていくというのはダメです。二グループまででしょうね、奇経治療にもドーゼがありますしお灸を指示する時にも覚え切らなくなってしまうので二グループ程度までにされておく方がいいと思いますけど。大阪にいた時期には三グループ取っていたこともあるのですけど、それは本治法の腕が悪いぞという話でしょう。それから先程出てきた腰痛でも腎兪から大腸兪までが痛むのであれば陰U脈を用いるのですが、かなり痛みが取れてももう少しという時には他のグループを加えてもいいのですが、反対側つまり右の照海と左の列缺に取るという左右交差という方法もあります。

 

 最後に誤解がないようにもう一度まとめておきますと、奇経治療を主体としている治療家も存在しているようにこれ自体で素晴らしい治療法です。また奇経治療と本治法を併用することは必ずしも本治法の腕を補っているだけでなく、その生活環境から奇経灸で自宅療法をやってもらうことを特徴とされているのであって非難されるものではありません。ただ、我々の推進する『漢方はり治療』は病症のみを追いかけるのではなく病理解釈を基本とする証決定と衛気・営気の手法を駆使することにより、難経の提唱する治療を忠実に再現できるようになって普段の臨床室では毎回取り入れなくても患者さんを治癒に導けるようになったのです。

 難経で初めて取り上げられた奇経なのですから、やはり奇経病症は奇経治療で行うべきでしょう。これからも初心者のお助け的飛び道具として入っていくのか、奇経病症のみに用いるようなモデルを作り上げていくのかは、これからの課題です。




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