病理産物としての気滞とパーキンソン病の治療

 

滋賀県(漢方鍼医会)  二木 清文

 

 

  『病理産物』という用語について

 インターネットで検索をすれば、中医学を中心に病理産物という言葉はいくらでもヒットしてきます。しかし、漢方用語大辞典にもその他の辞書にも「病理産物」という項目はありません。これだけ一般流通している用語なのに、一体どういうことなのでしょう?

 考えられる要因としては、必要だったから使われるようになった用語だということでしょう。それで色々と調べていたなら西洋医学にも「代謝産物」という用語が見つかったのですけど、どの辞書にも掲載がありませんでしたから必要に迫られての造語ということで間違いないでしょう。

 

  では、『病理産物』とは何か?

 病理学という用語を辞書で調べると、病気の種類やその本態を、主に解剖学的、組織学的に追究する医学の一分科とあり、病理という言葉自体が機能的だけでなく器質的変化も伴っていることになります。

 考えてみれば当たり前のことなのですが肩こりでも腰痛でも、あるいは頭痛でも化学変化は体内で発生していますし、触診でも部分的な変成が認められます。つまり病症が発生しているということは物理的変化も必ず伴っているということであり、気血津液においても変成を必ず伴っているものなのです。

 正常な気血津液が変成した状態は色々とあるのですが、その代表的なものは気が滞って流れなくなっている気滞、津液に熱が加わり粘りのあるものへと変成した痰飲、働かなくなって粘りがあり熱を持ったC血です。

 

  『病理産物』を触診する意義

 池田政一氏は「証とはどこで・何が・何故・どうなった」と定義されており、「何が・何故」という部分は推論から病理考察するしかありませんでした。しかし、病理産物が触診できれば「何が・何故」をほぼ特定でき、矛盾のない病理考察が素早く組み立てられるようになります。これは予後判定も含めて効率的な治療へとつながってきています。

 また実際の治療へ入る前に経絡を軽擦すれば、正しい証であれば病理産物は直ちに解消するはずなので証決定の確認にも大いに役立っています。

 

  『病理産物』の触診方法

 病理産物の触診は、腹診にて行います。

 まず難経に示されている五臓の配当ですが、臍を中心とした部位が脾・陰交あたりから下腹部一体を腎・中あたりから肋骨弓あるいは胸部までを心・側胸部までを含めた右側腹部を肺・側胸部までを含めた左側腹部を肝としています。

 そして、接近からわずかに触れるか触れない重さで気・手掌が密着する重さで津液・それよりも重くなると血が触知できます。五臓それぞれの腹診では垂直に押さえることで主に臓の状態を把握することになるのですが、手を揺らせたり指でつまむことにより病理産物の貯留具合も把握することができます。

 五臓それぞれの腹診は脉診でいうなら単按に相当するので、総按に相当するように大きく手を回しながら腹診すれば身体全体としての病理産物を触知することができます。五臓の位置を気にすることなく全体だけを意識すればよく、前述の腹診とはかなり違ったイメージのものが触診できます(写真は脾の部位を腹診している場面と、手を回しながら血の重さで腹診している場面です)。

 気滞・痰飲・C血といった代表的な病理産物以外にも、気虚・水滞・血滞などが複合的に触診できますから、この発表内では病理産物を把握することは、全て大きく手を回しながら腹診していることを差しています。

 そして先にも書きましたが、病症が存在するということは病理産物が存在していることであり、治療により病症が改善されれば病理産物も解消して何も触知できない状態となります。逆に表現すれば病理産物を解消させるためにはどうすればいいのかを考えればよく、脉診のみに頼ることなく総合的に診察・診断・治療を進めるためには病理産物を意識した腹診が不可欠であると言えます。

 

 

症例

 患者 六十四歳、男性、会社経営。

 主訴 喋りにくい、全身のだるさ

 愁訴 パーキンソン病の発病は四年前からで、当初は鬱病と診断されていたが実はパーキンソン病であることが後から判明。現在最もつらい症状は喋りにくいことと身体の疲れが取れないことで、手の震えも始まっている。パーキンソン病特有の身体制御が利かない状況から次第に全身が動かない状態への変化の途中のようである。

 既往歴 特になし。

 現病歴 会社を経営しているので接客が多く、思ったことがすぐに喋れないことと喋りにくいことを来客に悟られないかとの強いストレスが患者にはあり、元々の全身のだるさに拍車が掛かりパーキンソン病がより進行するものと思われる。

 

  病理考察

 機能失調による疾患全般に言えることだが、その他には症状がないので脾の運化作用が低下したものか・肝の疏泄作用が働かないのか・C血によるものなのかなど、当初は証決定に決め手がなかった。ところが五臓に対する腹診とその病理産物を触診することは行っていたのだが、手を大きく回しながら腹診することで身体全体としての病理産物とは何かの触診を臨床全体の中で試み始めていた時期であり、強い気滞が触診される。

 気滞が発生しているということは気はもちろん、津液も血も停滞していることであり、動きたいのに動けないという病状とまさに合致してくる。肺の宣発・粛降作用が低下するために病が進むのであり、肺虚陽虚証として治療を進めることとした。

 

  経過

 肺虚陽虚証へ証を変更すると直後効果が現れるようになり、週一回の継続治療で最初に手の震えが止まり続いて唇の震えも止まって治療開始から一年二ヶ月経過した現在では三週間に一回の間隔としており、まだ少しでも無理があると疲れやすくそのような時には若干震えも再発するが喋り方は他覚的には正常で、治癒を目指して継続中。

 

  考察

 病理産物を触診できるようになって、今まで見落としていた証に多く気付くようになりました。というよりも、知識がまだまだ乏しくこじつけで病理考察を組み立てるために、診察結果をねじ曲げる傾向にあったのでしょう。特に脉診は「これでいい」と治療家が納得してしまえば、評価の基準がそこへ定着してしまいます。

 しかし、病理産物が解消しているかどうかは客観的基準で判断できるため、見落としていたりねじ曲げていた病理考察も修正できるだけでなくその時には不明でも後から判明したケースも多く、患者さんは一人一人が師匠だということに改めて感謝を続けている日々です。

 パーキンソン病に限っていえば気滞の発生しているケースが圧倒的に多く、時折脾虚などへ証を変えてバランスを保つことによりその他の症例でも好成績が続いています。

 

五臓で、脾の部位を腹診している写真です

 

血の深さを腹診している写真です

 

ポスターを張りだしたところと筆者

 

質問を受けているところの写真




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