《臨床家養成講座》

顔面部、頚肩部の治療

(滋賀漢方鍼医会)二木 清文

 

◎顔面部の治療

〈三叉神経痛〉

身体各部の病症の中から、三叉神経痛と頚肩部の病症です。

三叉神経痛を、患者さんは「顔面神経痛」と言われます。しかし、顔面神経は運動神経ですので、「顔面神経痛」というものはありません。

第一枝は額の辺りを支配し、第二枝は頬骨を中心とした中間部辺り、第三枝は頬から顎の辺りを支配しています。これら第一枝、二枝、三枝は全部が一度に出てくるのではなく、第一枝は単独、若しくは、二枝、三枝が連動して出てくるものがほとんどです。ですから、顔が痛いと言われた場合には、どこが痛むのかを把握することが大切です。三叉神経痛は顔面麻痺と同時に現れている場合もありますので要注意です。顔面麻痺の場合は、ベル麻痺なのか、ハント症候群なのかの見極めが大切となり、ハント症候群の場合は、これを患者さんに告知し、完全治癒が見込めるのかを検討して取り組む必要があります。

第一枝の場合は、治りやすいものと治りづらいものがあります。根っこの辺りが痛いと言われる場合もありますが、眉毛の辺りが痛むことが多くみられます。中には額が痛むという方もみえます。頭皮なのか三叉神経の領域なのかを見極めなければなりません。

第二第三枝は、風に中った場合などによく発症します。私も以前、一度だけ経験があります。扇風機をつけたまま、寝入ってしまい、次の日の朝、見事に第二枝の三叉神経痛が発症しました。その時はまだ学生でしたが、自分で風池に鍼をして症状は治まりました。

証は痛みが強い場合は、肺虚肝実証、脾虚肝実証が多くなってくるのだと思います。肝虚や腎虚は、他に下焦の病があれば考慮すべきですが、あまりみないのではないかと考えます。やはり脾虚が中心になってくると思います。痛みがあまり強くない場合は胃や大腸に営気の手法を加えることで解決します。

奇経治療では、外関、臨泣です。これは肩凝りが強くなってくると、三叉神経痛の症状が強くなると言われていることから併用することもあります。或いは、申脈、後谿の組み合わせも効果的です。大腸経の合谷や胃経の陥谷は、期待できるところですが、実はあまり効果がありません。もうひとつ効果的な治療法に、刺絡があります。標治法的には、頚肩の張りを訴える方が非常に多いです。顔の痛みから肩が凝るということに繋がるとも考えられます。

三叉神経痛に伴って、歯痛に移りたいと思います。これは歯が痛いのか顔が痛いのか分からなくなります。歯が痛いという場合には二種類あります。「歯が浮く」というのは、歯に力が入らなくて物が噛めなくなった状態です。これがひどくなると歯痛になります。これは歯科医師にかかっても無駄です。もうひとつは「虫歯」です。歯自体が悪くなっているものは虫歯、歯根が悪くなっているものが歯槽膿漏に繋がっていくものです。どちらも腐ったもので、これらは歯科医師の領域です。

 

〈歯痛〉

歯痛の原因は、効果的な標治法に繋がるため西洋医学的な話をしますが、痛みが強くなると原因となっている歯の隣の歯までが痛くなります。これを放散痛と言います。その後、上下のどちらか、原因がある側の全体が痛くなります。最後は口全体が痛くなり、どこが痛むのか分からなくなるほどです。この痛みの場所が限局できないほど広がるというのは、口の周囲のリンパが全部腫れているためです。そしてリンパの腫れによって、神経が圧迫されて口全体の痛みとなります。

これを逆手にとると歯痛は、鍼灸治療で必ず止めることができます。やはり正しい証をたてて本治法を行い、リンパに対してはしっかりと流すような標治法を行います。後頚部の場合は散鍼を行いますが、下顎のリンパの腫れは数が多い上に、鍼ではリンパ節が小さすぎてなかなか当たりません。これをどうするかというと、下顎に四本の指を引っかけて、グッと押し込みます。ところてんを押し出すようなイメージで、リンパを押してその流れを物理的に改善するのです。正しい証で治療ができていれば、この方法を五回くらい繰り返すことで、必ず歯痛は止まります。

以前、私の治療室に歯医者さんに行っても歯の痛みが治らないといって来院された患者さんがみえました。とにかく痛くて口も開けられないし、食事もできないが、虫歯は全く無い。肩もそんなに凝らず、歯が浮いているわけでもないという方でした。診てみるとやはりリンパが腫れていました。この方は、きっとどこかで菌をもらってきてリンパが腫れ、神経を圧迫したのだと思います。後頚部には?鍼で散鍼を行い、下顎にはところてんを押し出す方式を行い、あとは歯医者さんと連携して噛み合わせや歯の悪いところを治療していきました。大体、一ヶ月半くらいでちゃんとご飯が食べられるようになりました。

他には、肩が凝りすぎて歯が浮いて、口も上手に開かなくなった患者さんにこの方法を行ったことがあります。その患者さんはあまりの痛さに悶絶されました。その日は「痛さで熱が上がるかも知れません。」ということを告げて帰しました。次の日に結果を聞いてみると「熱は出たが熱が下がったら口が開くようになった。」とのことでした。ですから、やりすぎないということは条件かもしれませんが、私は歯痛に関しては、この方法で絶対的な自信を持っています。

歯痛で気をつけないといけないことは、歯槽膿漏で膿が溜りすぎているものです。これは膿がドンドンと溜っていくと瘻孔といって、正常な組織を溶かしていき、溝ができるようになります。あまりにこの歯痛が長いという人には目の辺りを押さえてみて、脳の方に響きがないかを確認してみてください。これは最終的には瘻孔が脳に達すると死に至るものです。私が診た患者さんは頭痛が始まると五日間ほど続くという症状で五年ほど悩んでいて、「肩凝りかもしれない」といって来院されました。しかし、響きがあるしこれは歯科医師の受診を薦めました。そして大学病院の口腔外科での診察で、脳に達する寸前だったということでした。他の患者さんも頭痛、肩凝り、体がだるいという症状があり、自分で押さえてもらうと頭の中心に向かって響くということもありました。

 

【質疑応答】

Q 下顎の下に指を入れて押すというのは、下歯、上歯で違うということはありますか。

二木 上でも下でも同じように行います。

Q 私の経験なのですが、疲れがたまると歯が浮くというか痛む時がありました。この時は、腎で治療して治りました。二木先生はこういう患者さんにはどんな証で治療されますか。

二木 肩凝りは全部の証がありますので、一概にこれということは言えません。補足ですが、「歯が浮く」という症状もやはり、リンパが腫れて起こるものです。ですからやはりこの証ということは言いにくいです。

Q 歯痛に関連して、顎関節症があります。これについて何かあれば教えて下さい。

二木 顎関節症はなぜかは分かりませんが、最近増えてます。五、六年前の私の調べでは、二十〜四十代の女性に圧倒的に多いと書いてありましたが、最近は中年男性や六十代の方も発症します。六十代の方は戦後すぐくらいの方ですから硬い物を食べていたんだと思いますが、一般的に言われていることは柔らかい物中心の食生活で咬筋が緩む、または靱帯の緩みだと西洋医学では言われています。治療としては、頬骨の下の下関の辺りに圧痛がでています。ここに?鍼をゆっくり当てます。森本?鍼の場合は時間節約術として、細い側ではなく太い側を当てます。これで早い人であれば三回程度で良くなります。

Q ありがとうございます。では本治法を行った後、下関の辺りを補って、その他には頚肩部の凝りを緩めるということでしょうか。

二木 そうです。それ以外では効果的な治療法は今のところみていませんし、この方法で治癒しています。

Q 瘻孔についてですが、頭痛、肩凝りがあって、加えて顔を押した場合に、頭の中心に響きがある場合に瘻孔を疑うということでしたが、これらの症状だけで歯科医師の受診を判断することに抵抗があるのですが、頭痛の特徴などの見分け方はありますか。

二木 そういう患者さんは、歯にも多少の痛みを訴えてきます。瘻孔は少なくとも半年、普通は一年〜三年程度かかって形成されます。その間にも歯痛は必ず感じています。最初は歯のほうに症状が現れていますが、出口がないために頭の方へ膿が溝を形成していくものと思われます。あとは、体がすぐにだるくなるというのもひとつの特徴です。これは脳にドンドン迫っているため、防御反応として、循環を落として守ろうとしているためです。ですから、頭痛に伴って倦怠感はないかということも参考になると思います。

 

◎頚肩背部の治療

では、次に頚と肩凝りをまとめて話したいと思います。最初に、頚椎ヘルニアについて調べてきたものをお話します。

頚椎ヘルニアとは椎間板が退行変性し、繊維輪が断裂を起こし、髄核が脱出したり繊維輪が後方に突出して、神経根や脊髄を圧迫し、これにより疼痛や知覚障害、脱力などの症状が現れるものです。特に頚椎の五番、六番の間、六番、七番の間の下部頚椎で好発します。

肩凝り全般の話の前に、私は六年程前になりますが、大分の首藤傳明先生の治療室に見学に行ったことがあります。当時、首藤先生は「超浅刺」ということを言われ出した頃で、超浅刺以外に何かないかということで刺さない?鍼による治療ということも考えておられたそうです。そこで、当会の?鍼の治療にも興味を示され、そのことも含め色々な話をしました。その時に、ちょうど首藤先生も私も考えていたことが「慢性の肩凝り」についてでした。「慢性の肩凝り」というのは、頚椎ヘルニアだと捉えた方がいいという見解に至りました。これは卵が先か鶏が先かの話になるのですが、肩凝りを我慢して姿勢が悪くなっていくうちに頚椎に異常が発生するのか、または頚椎の異常があるために慢性の肩凝りになってくるのかですが、これは別問題です。慢性の肩凝りの方は必ず頚椎の異常があって頚椎を触ると左右どちらかのある箇所に痛みがあります。これがとれるかどうかが目安になります。頚を意識して治療をしないと慢性の肩凝りは治らないということです。ですから、頚と肩上部の凝りを今回一緒にお話させていただくことにしました。

では、基本的な治療の話に戻します。肩凝りは内経を含めると十二経絡の全てが通っています。ですから、先ほどの質問の中に、肩凝りの証というものがありましたが、これは答えられません。また、陽経が強く作用している場合もあります。肩凝りは、証によっての特徴は残念ながらあまり有りません。ひとつ言えることは附分、魄戸、膏盲の、膀胱経二行線の肩甲間部の凝りが強く、自発痛になるような人は肺虚肝実証です。

あとは右の肩が強く凝る人は気滞による凝りで左の肩が凝る人は血による凝りというように言われますが、これはあまり当てにしないほうがいいように思います。むしろ西洋医学的な心臓疾患や胃潰瘍だと左の肩凝りから肩関節痛になるとか、肝臓疾患だと右といったことを当てにした方がいい気がしています。頚の凝りについても陽経が全て通っていますし、陰経は肝経と心経しか通っていませんが、これもあらゆる証があります。

「ナソ治療」というものがあります。缺盆は禁鍼、禁灸穴となっています。字面では鍼をしてはいけないように読み取れますが、注意してやりなさいということだろうと考えます。或いは鎖骨下の刺鍼は抵抗のあるところまで豪鍼や?鍼を当てて、流れを良くします。分布は頚の胸鎖乳突筋から母指、示指、中指、薬指の順番で配置されています。

 頚椎ヘルニアに話を戻します。西洋医学的には頚椎の異常が起こって筋が引っ張られる、東洋医学的には物理的異常によって気滞、血滞が起こる。これを治すためには前、中斜角筋に施術するのが一番効果的だと気がつきました。腕にまで症状がある場合にはナソに施術するのが効果的であると考えますが、肩凝りについてはこの斜角筋に対してのアプローチの方が簡便だし、よく効くという発見をしました。頚の前の方が頚椎の下の方に異常がある場合で、後ろに向かうに従って頚椎の上の異常に対応していると感じています。しかし、頚椎の中のひとつだけに異常があるということは無く、バランスをとるために他にも異常があるはずですので、三カ所くらい行います。

経絡を中心に考えると頚椎ヘルニアは、関節の歪みにより物理的に経絡の流れが阻害されています。経絡の流れをよくするために可能な限り歪みを修復する。そう考えれば矯正という手技も経絡治療に含めていいと私は考えます。ですから私は、患者さんの年齢、体力的なもの、筋の硬さ、高血圧ではないかなどのリスクが無いという条件で、頚椎の歪みがひどい場合は、頚の矯正法も取り入れます。これで頚椎ヘルニアが原因で、腕が痺れて足が麻痺していた患者さんが治ったというケースがあります。しかし、患者さんによっては、頚の矯正に恐怖感を持っている方もみえます。そういう方は矯正する瞬間に力が入ってしまい、痛みが残ったり吐き気が出たりする場合もあります。様々なトラブルを防ぐためにも、やはり患者さんの同意を得て行うべきです。

次にナソ治療のドーゼについてですが、横臥位、仰、腹臥位、坐位の順で刺激量が上がります。特に坐位は仰臥位や腹臥位とくらべると十倍くらい刺激量が増すため注意が必要です。

 

【質疑応答】

Q 頚椎ヘルニアではなく頚椎が潰れている患者さんなのですが、肩だけに不定期にぴりぴりとした痛みが出るそうです。そういう症状を鍼で軽減させるということは可能ですか。

二木 そのためにこの会に出席されているのでしょう。答えは可能です。

Q 頚椎ヘルニアの程度がひどい場合は、病院で手術を薦められ、早く治りたいという思いから手術に踏み切られる方が多いと思います。そういう方達に鍼灸の治療を薦めるのが良いのか、手術を薦めるのが良いのかの見極めの方法があれば教えて下さい。

二木 絶対的に手術した方が良いのは、ヘルニアではありませんが脊髄腫瘍の場合です。これで呼吸困難を起こしている場合は手術以外にありません。ヘルニアの場合、手術して良くなるということはほとんどありません。麻痺で歩行ができない、腕を挙げることもできないという患者さんは、その方の納得の上で手術をするかどうかだと思います。交通事故で頚椎損傷になられた方でも、頚椎にまでメスを入れた方のほうが、障害は大きく残ります。やはり、患者さんのQOLの問題で、これ以上悪くなると生活が維持できない場合や、命に関わらない限りは手術はしないほうが良いでしょう。しかし、患者さんの同意と選択の下に治療は行うべきでしょう。新井先生何かありませんか?

新井 二木先生が言われたように、事故などの三次的な原因で脊髄損傷になっている場合は手術が必要な場合があります。しかし、徐々に傷んできたにも関わらず、レントゲンでみたらヘルニアだったということが結構あります。ヘルニアや椎間孔が狭くなって炎症を起こしていて、どうにもならないという場合があります。椎体は重なり合った上下の関節面が椎間孔を形成し、そこから神経が出てきて炎症を起こしたり圧迫されたりしている。しかし、骨が変移して圧迫しているということは、ほとんど無いことです。整形外科ではそういう診断はよくあります。これは骨が原因ではなくて、椎間孔の中の組織が充血することによって炎症を起こします。その炎症が神経を圧迫しているのです。この炎症がとれれば神経の圧迫も解消されて痛みが引くということがほとんどです。そういったことであれば経絡治療はとても有効です。手術を薦める、薦めないはこちらでは考えないほうが良いでしょう。どうしても痛みがとれない場合は、患者さんが自ら病院に行きます。その時に「では、レントゲンで診てもらって下さい」と言えばいい。その原因が三次的なものであれば尚更です。最近は三次的なものが関わっていないものでゴルフがあります。プレーした後、しつこい頚の痛みに悩まされる例が結構多くなっています。痛くて上も下も向けない。勿論私たちも治療します。しかし、もう少し勝負させて欲しいと思っても、痛みが強くて待ちきれなくなって病院に行かれることもあります。やはり患者さんとの信頼関係を築いて是非やってみてください。

Q 頚椎ヘルニアの場合も先生は、矯正を行っているのでしょうか?

二木 ヘルニアの程度によりますが、慢性の肩凝りは頚椎ヘルニアの症状が出ます。そのまま放っておくと整形外科で言うようなヘルニアになります。大なり小なり頚椎ヘルニアとして頚への治療もして下さい。安全で矯正をした方が早く治るだろうという患者さんには矯正します。鍼だけでいけるという患者さんには無理はしません。

Q 頚椎ヘルニア、腰椎ヘルニアは後外側の脱出が多いのだと思いますが、中には中央後部脱出で脊髄を圧迫することもありますが、こういう方に対して、例えば、下肢の痺れや膀胱直腸障害が軽度みられるような患者さんを対象とするのかどうか、若しくは、そういう症例がありましたら教えていただきたいです。また、高血圧の患者さんで慢性の肩凝りを伴う場合のアプローチを教えて下さい。

二木 今、手も足も痺れてしまって、手はほとんど感覚が無いという患者さんが来院しています。食事も箸が持てないためにスプーンを使っています。足も杖がないと歩けないという状態で、完全に頚椎ヘルニアです。MRIでもヘルニアと診断されています。その方は、治療を初めて一ヶ月半ですが、最初は頚に大きな硬結がありました。これが鍼灸治療で十分にとれました。その確認をしてから矯正も行っています。現在は杖無しで歩いています。その患者さんの場合は、QOLが維持出来ている状態から始めたということと、手術はしないという強い意志がありました。

 高血圧の患者さんの肩凝りについては、血圧を下げる治療と言ってしまえば身も蓋もありませんが、以前、血圧が二〇〇以上あって、ろれつが回らない状態で担がれてきた患者さんがみえました。その時は、天柱、風池を結んだ線をパンパンと切って出血させ、血圧を下げて肩凝りをとったということがありました。これは緊急的な処置で、普通は耳介後方の降圧孔を使うと効果的です。高血圧は心臓の機能とも言いますが、東洋医学的には血が充分に肝に溜められない、または、津液から血に変われないために、どんどん回されている状態ですので五臓の状態を整えるということが大切です。先ほどの緊急処置を行った患者さんは、ナソ治療よりムノ治療の方が肩凝りがよくとれました。ですから、肩凝りをとるのにナソ治療は基本になりますが、ムノ治療も視野にいれておくべきだと思います。

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