(2018年5月に本部研究部で発表したものですが、少し補足を加筆してあります)

 

「治療パターンを整理する - 時邪を応用した切り分けツールの提案」

 

滋賀漢方鍼医会  二木 清文

 

 

目次

         1. はじめに、漢方鍼医会の現状とパターン整理の提案

                  1.1 組み合わせ方

                  1.2 陽経から治療をするとき

         2. 時邪を応用した切り分けツール

                  2.1 きっかけ

                  2.2 具体的方法

                  2.3 理論考察

                  2.4 確率について

         3. 具体的治療

                  3.1 菽法の高さに合致した脈を作る

                  3.2 生気論と邪気論を単純比較

                  3.3 生気論での治療

                           3.3.1 陽実証・陽虚証・陰虚証

                           3.3.2 生気論でも邪を払うことは必須

                  3.4 邪気論での治療

                           3.4.1 頸部で軽微な邪を払う

                           3.4.2 頭部で邪を払う(ゾーン処置)

                           3.4.3 陰実証は邪気論の治療

                           3.4.4 疑問点は残っています

         4. もう一度、治療パターンの整理

                  4.1 カルテの記入方法

         5 おわりに

                  付録、現在用いているていしんについて

 

 

1. はじめに、漢方鍼医会の現状とパターン整理の提案

 漢方鍼医会では「学術の固定化をしない」ことが会則にも明記され、実際に柔軟にその時の新しい提案を取捨選択してきました。わずか25年で創設時とは全く違うというほどの進化をしており、これはとても素晴らしいことだと臨床に大いに生かしています。 しかし、変化がめまぐるしく「ついて行けない」という意見があるのも事実であり、個人だけでなく地方組織ごとで実技内容にばらつきがあるというのが夏期研愛知大会のパネルディスカッションで明確になりました。

 地域の特性や治療家によっての個性が出ることは当然であり、全く同じ治療が画一的に行われる必要はないものの、漢方鍼医会善対としての足並みはそろう必要があると思います。今の漢方鍼医会では生気論か邪気論のどちらの切り口から入るのか、そして陰経からなのか養鶏家らなのか、考えられる四つの組み合わせが何かのツールを用いて切り分けできれば非常にその後の考察が楽になります。これが時邪を応用することで簡単に実現できるという提案です。

 今回は話が広がりすぎないように治療パターンに的を絞って進行していきますので、討論にご協力ください。

 

1.1 組み合わせ方

 会発足当時から20周年記念大会までは六十九難を中心とするいわゆる経絡治療の王道に幅を持たせるという感じの治療であり、二十周年を境に森本先生を中心に大阪漢方鍼医会が提唱した四十九難・五十難を応用した病因論からの治療が加わりました。また並行して衛気・営気の手法と毫鍼からていしんへの切り替えにより「陰経から補って陽経から瀉す」という経絡治療の公式が成り立たなくなったことから、剛柔を応用した陽経からの治療というものが出てきました。

 経絡治療が金科玉条とする六十九難の治療法則や「補って後に瀉す」というパターンの治療法と邪を取り除く治療法は切り口が違うだけで結局は病の治癒を目指しているのであり、同じ難経の中で述べられているのであって先に邪を取り除くことが記されているということは「単純に邪を取り除くパターンで解決できないときには六十九難や七十五難の治療法則を用いなさい」と読んでいくのが妥当だと考えられます。後からわかってきますけど、邪を排除せずとも押し流して整えられるならその方がいいだろうということで六十九難が出てきており、深い陰経でも単純には解決できないので肝実の排除法として七十五難がもっと後に出てくるのではないかと個人的には読んでいます。

 従来の経絡治療のパターンを気血津液論だとか難経の治療法則だとかいわれていますけど、病因論からの治療は邪気に対するものですから営気の手法が重視され邪気論での治療であり「邪気論」、これに対して衛気の手法を駆使して補うことを優先しているのですから従来のパターンのものを「生気論」という言葉でこの先は説明させていただきます。あくまでもこの文章の中で二木個人が定義したものであり、今後の参考になればということで押しつけてはいませんので、あしからず。

 それで生気論と邪気論に陽経からと陰経からの切り口ということで単純に組み合わせると、陽経から生気論・陽経から邪気論、陰経から生気論・陰経から邪気論と、四つのパターンになります。この四つのパターンまで絞り込める何かがあれば、特に生気論と邪気論のどちらを優先すればいいのかを切り分けることができれば病理考察がスムーズとなり、例えば実際の取穴をして思い通りの変化をしないことから途中からの軌道修正をするにしても、何が違っていたのかを特定しやすくなります。

 いきなり臨床追試している具体的方法へと進みたいところですが、前提条件がありますのでもう少しだけ条件設定におつきあいください。

 

1.2 陽経から治療をするとき

 難経九難に「九難に曰く、何を以って臓腑の病を別ち知るや。然り、数なるは腑なり、遅なるは蔵なり(以下略)ということで、病的な数脈の時には本治法も陽経から入るのが効率的だと提案されてきました。提案された頃は生気論のみだったので剛柔の理論と会わせることにより、ていしん治療ではやや苦戦していた数脈に対して効率的な対処が可能となりました。陰経から補って陽経から瀉すという経絡治療の公式が、打破できたわけです。ところが邪気論が提案されると、病的な数脈の場合はやはり陽経から治療をするということなのですけど(五行穴を合わせる形式で)表裏の陽経を用いるとされました。

 陰経から入るとき、生気論と邪気論は衛気の手法か営気の手法かということで区別されるのですが、ちょっとずるいかも知れませんけど衛気・営気の両方の軽擦を試みて治療理論の選択をするということも可能ではあります。臨床現場は何が起こるかわからないので、実際にやってみて驚いて方針転換をしたことがありました。けれど病的な数脈の場合、用いる経絡そのものが違ってしまうので不便というか柔軟な方針転換には不向きです。

 生気論で陽経から治療をするケースが安定的に運用できるようになった頃、選穴のほとんどが絡穴でたまに原穴ということでバリエーションの少ないことに気付きました。そこでほかの経穴を探っていると臨床家ですから営気の手法なら用いれることがわかってきて、これは「邪気論を剛柔の陽経からでも運用できるのではないか」と、滋賀の月例会で病的な数脈のモデルが上がったときに剛柔の陽経と表裏の陽経から治療をしてみて比較したところ、遜色なく効果が出ることがわかりました。しかも五要穴と病証が合致しているので邪気論は陰経も陽経も五要穴を中心に考えられるということで非常にわかりやすい。つまり陽経から治療を行うときも剛柔の経絡を用いて生気論も邪気論も処理できるというのが、二年前に発表をしたものです。これで陽経の経絡も一つに的を絞れるようになり、選経に関してはすっきりできました。

 

2. 時邪を応用した切り分けツール

 さて時邪についてなのですけど、「これをやるぞ」と突然言い出されて、いいものなのでしょうけど何がいいのかの説明もなく外来講師の講演から追試をせよといわれても、地方組織は正直困惑するばかりでした。当初は完全にもてあましていたのですが、時邪の概念そのものは非常に衝撃的だったので「まず時邪を払ってしまえばどうなるのだろう」ということは漠然と考えてはいました。

 

2.1 きっかけ

 この切り分けツールのきっかけは2年前の学術部合宿で、合宿時点では該当する時邪のパターンを書き出しているという段階でしたから「今回はとりあえず考えられるパターンのものはすべて触ってみる」というのが実技でした。2月ですから初の季であり、肝経と胆経の井穴へ営気の軽擦もしくは流注を横切る泄案を施し、その他の井穴などもすべて試していました。その他の班のベッドと同じく様々な反応なので今ひとつ手応えがわからないと思っていた後半、実際に鍼まで行うということになりましたからモデルの大敦を泄案したならきれいな脈状になるだけでなく大きく沈んでしまいました。「これはうまく該当したケースだな」ということで大敦へ営気の鍼をしていい治療結果が得られました。次のモデルに変わると、今度も大敦できれいな脈状に変化したのですが、直前と逆で脈状が浮いてきました。病情がなく好調だということですから「んっ!」と引っかかったわけです。病情がないのですから時邪の研修ではありましたけど普段の臨床と照らし合わせて生気論で脾虚陰虚証とし、治療をしてさらに改善していました。

 

2.2 具体的方法

 その後に治療室で時邪に該当する陰経と陽経の井穴へ軽擦をして追試していると、陰経か陽経かどちらかは脈状が跳ねてどちらかはきれいになるということがわかりました。でも、最初は確実に再現させることができませんでした。あの合宿の時に浮沈の差が出たことを再現させたくてしつこく2セット目・3セット目と重複してやってみると、確実に再現できることを発見しました。

 さらに脈が変化するということはお腹も変化しているのであり、陰経から邪気論の判定が出たときには悪血反応がより顕著となるので、肝実証の見極めにも役立つことも副産物として発見しました。肝実は営気の手法が中心であり元々から邪気論の一部ですから、邪気論の判断が出たときには腹診で肝と腎の間で指を揺らせて粘りを確認し、粘りがあれば肝実証として考察していきます。触診で悪血を判断するのは「粘り」があるかどうかであり、軽く指の圧を加えて揺らせると、粘りの有無は容易に触知できます。これにより脾虚肝実証が割と多いことやご婦人でも悪血による肝実証ではなくシンプルな邪気論で治療するケースが割と多いこともわかりました。気口により生気論と邪気論の割合が変化することもわかってきました。

 具体的方法は実に簡単で、時邪を該当している季節の陰経・陽経のどちらも清潔を横に払って取り除いてしまえば、陰経か陽経かどちらかは脈状が跳ねてしまうのでこちらは除外して、脈状がきれいになった方の浮沈で切り分けられます。脈が沈めば邪気論で、浮けば生気論から考察するとうまくいくというのが今回発表の核心部分です。

 秘訣は1セットではなく2セット目を行わないと脈状の違いがよくわからないケースの方が多いことと、現在は肝実の判定のためにも3セットは清潔へのアプローチが必須だと定義しています。陰経・陽経・陰経・陽経・陰経・陽経の順で井穴を泄案し、当然ですが脈が跳ねた状態では放置せずきれいな状態にするため四度目の陰経への泄案をすることがあります。(本部研究部で発表をしている)5月13日は立夏が済んでいますがまだ二の季であり、間もなく「三の季」となり心包経と三焦経が該当するのですけど、この二年間の観測では「二の季」を引き継いで心経の少衝と小腸経の少沢へ泄案を行って確認をすることになります。

 

 (補足1):漢法苞徳会会長の鈴木福三朗先生が初めて外来公演をしていただいたときの原稿を、一部引用させていただきます。(引陽ここから)「八木先生も時邪を言い出してから、どこから邪を抜こうかというのを十数年かけて試行錯誤されていました。邪の入った経、絡の邪の性質を持ったツボを使うなどしながら効果的なツボを探っていたわけです。そして、亡くなる何年か前、最終的にたどり着いたのが、金元四大家の張子和の書いた『儒門事親』でした。その中に完璧な文章が書いてありました。それによると「風木肝酸は達鍼。胆と表裏をなす。東方は木なり。色は青。外は目に応ず。血を治すを主る。」とあり、そのあと薬味が書かれており、「諸風、掉眩皆肝に属す。木は動を主る。治方をいうに達は吐なり。大敦刺すべし。また灸も同じ。」とあります」(引陽ここまで)。そして各季節は該当する井穴で時邪のほとんどが処理できると説明が続き、それでも処理できないときには次の段階を使うこともあるが病情に対する治療へと移っていくとも説明されています。実技を受けたときには10月ですから五の季であり、あの大きな大きな汎用太鍼で肺経の井穴である少商を悲鳴が出るほどの強い力で押さえられました。我々の技術体系とは差があることと脈診を駆使することで漢方鍼医会の季節の治療を構築しつつはあるのですが、古典にこれだけはっきり時邪は陽谿の可能性もあるが井穴に現れて処理するのだと書かれてあるのですから、こだわって模索していたなら切り分けツールへとつながってきたのであります。時邪それ自体については漢法苞徳会でも井穴のみでほとんどは処理できると言われるのですから、漢方鍼医会の治療システムと矛盾を起こさないためにも井穴までのアプローチにとどめるのがベターではないかというのが、個人的見解です。

 (補足2):原稿執筆時点では時邪を払うと脉状が「跳ねる」「きれいになる」とその後の浮沈の変化が、二者択一で確実な変化を出すように思えていましたが、研修会の中で行っていると「そこまで確実な変化がわからない」という声が出てきました。原因を探っていると治療室では一人で行っていますから左手で経穴を探って右手で患者の左の脈を観察しているのであり、左の脈は右よりも菽法の位置が低いため変化が大きいのですけど右は菽法の位置が高いために顕著な変化が現れないということが考えられます。また「跳ねる」という表現を使ったのですけど、顕著な弦脈をイメージされた人が多く劇的な変化でないということで「よくわからない」と言われました。ですから、研修会で説明するときに現時点では「明らかに間違っている脈状」「流れが改善した脈状」と言い換えています。浮沈の変化については、変化がわかるまで時邪を払う動作を追加して判定できるようにしています。

 

2.3 理論考察

 仮説ですが、理論考察をしてみました。人間は自然の中で生きていますから時邪の影響は必ず受けているものの、当たり前に受けているものですから意識もしてきませんでした。それ故に今までは時邪を含めた状態で病理考察を行ってきたのですけど、まず時邪を払ってしまうとより診察しやすくなります。時邪を払うだけでも身体が顕著に動くケースもありますが、大半は今まで治療に携わってきたように経絡の気血や邪を調整することにより、重い症状でも対処ができるようになります。森本先生の表現を一部借りて説明すると、症状が発生しているのは道路の中に障害物があるようなものなのでこれを直接除去しようというのが邪気論の治療法であり、全体の流れから掃除してしまおうとするのが生気論での治療とすれば、障害物が残っているので流れが緩慢となり脈が沈むので邪気論だと判断できるようになります。症状そのものが軽かった利胆に循環のむらがあるだけなら障害物はないので全体を押し流せばいいのであり、脈が浮いてくるので生気論で治療をした方が効率的ということになります。さらに陽経・陰経のどちらからアプローチすべきかも、時邪の影響から判断できます。

 

2.4 確率について

 先行して滋賀漢方鍼医会で切り分けツールを公開したところ、導入が容易なことと判定方法も容易なことから臨床追試してもらい、現場でのツールとして既に定着してきています。それくらい高確率で切り分けができていると自負しています。また大阪漢方鍼医会がいわれている四段階で邪を探すことについても、治療法の入り口が違うだけで同じ手応えになっていたことに自分でも少し驚きました。

 

3. 具体的治療

 漢方鍼医会として足並みのそろった治療へ、オーソドックスなポイントを拾っていきます。私は道具へのこだわりが強いのでそれぞれのポイントでは道具のことも絡んではきますけど、それは使うものを持ち替えてしまうことにより手先だけでなく意識のスイッチも切り替えてしまっています。そうすることで一番オーソドックスな治療ができているとも思っています。

 

3.1 菽法の高さに合致した脈を作る

 漢方鍼医会が発足したきっかけは病理考察に基づいた証決定と、菽法脈診を導入したことでした。ただ、長らく脈差診で臨床をしてきた人には六部定位がフラットになった脈状というものが呪縛になって、証決定に菽法は取り入れられてもできあがりはフラットな脈状を作ってしまい、私も長らく呪縛に苦しんでいたことを以前に発表しています。しかし、本治法のできあがりは3.6.9.12.15の菽法の高さぴったりになっていた方がいいことは最近では当たり前になっています。私は不問診も行いますから最初の診察は両手同時に脈診をして証決定もそのまま行うことがありますけど、治療中の検脈は片手ずつに切り替えて行うようにしています。

 生気論ではもちろん、邪気論でもできあがりは菽法ぴったりの高さになっていること、これは絶対条件です。ここを踏み外すと漢方はり治療ではなくなってしまいますので、今一度強調させてもらいました。

 

3.2 生気論と邪気論を単純比較

 まずなじみ深い生気論ですが、経脈外を素早く動いて護衛をしている衛気を捜査することにより経脈内の血や津液も追随して動かせるという理解をしています。ですから、どの経絡でどこの経穴を使えばいいのかと考察をするのが一般的です。選経・選穴という順で決定をしていきます。これを応用して確認方法は、原穴付近を大きめに衛気の軽擦して選経を決定し、続いて具体的経穴部位で軽擦をして選穴を確定させることができます。実際に鍼をする前に結果がシミュレーションできるのですから、こんな便利な治療法を行わない鍼灸師を不思議に思ってしまいます。

 対して病因を直接取り除いた方が治療も治癒も早いと判断できるときに、邪気論を選択するという理解をしています。選穴は五要穴の病証を応用すると割り出しやすいと臨床しています。選経の参考には腹診も応用していますが、邪を探すのですから脈診では絶対に押さえないように指を反らせてスライドさせていくという方法を行っているものの、これは続いての指の操作をしないだけで三菽の高さと変わりはありません。割り出した経穴に営気の警察を行うことで生気論と同じく結果のシミュレーションができますが、流注を垂直に横切る泄案の方が変化が大きいようです。慣れればスピーディーに治療へ取りかかれる反面、慣れるまでが大変であり探っている経穴の位置を間違っていると結論に到達できません。

 今度は逆の順序で臨床導入を考えると、邪気論では病因を特定しているので選穴を特定しやすく、選穴・選経の順で考察すると結果が得やすく、生気論では変動している経絡がどこかということが重要なので選経・選穴の順で絞り込んでいくと結果が得やすくなります。少々しつこいですがもっと単純化させると、生気論は選経・選穴、邪気論は選穴・選経と考察する順序を反対にすることで混乱が回避できるというのが私の臨床だということを二年前の発表の中で盛り込んでいます。さらに今回は切り分けツールで四つの入り口をまず整理できてしまうため、病理考察がすぐ開始できるようになりました。そして、それぞれの利点をお互いに活用させています。

 

3.3 生気論での治療

 経絡治療の王道であり、つい最近まではこの考え方を基準にバリエーションを加えていたということで、実績は十分です。証決定がどうしても行き詰まってしまったときには、この原点へ戻るようにしています。

 

3.3.1 陽実証・陽虚証・陰虚証

 素問・調経論に書かれてある四大病型は身体の寒熱を表しており、本治法の選穴の参考になるだけでなく標治法のパターンが自動的に決定できます。陽盛は陽実証と同義であり、は陽の部位で陽気が充満・停滞した状態ですから、身体の表面に熱が停滞しているので手早く瀉的な手法も考慮しながら行います。陽虚は陽の部位で陽気が不足した状態ですから身体表面が冷えており、冷えやすい足への施術を優先してから気を漏らさないように鍼数を絞り時間も手早く行います。陰虚は津液不足からの虚熱であり、熱を引き下げるように背部は上から下へと流すような処置をしていきます。陰盛は内部まで冷えてしまった状態ですから、陽虚が進みすぎたことになり陽虚と同じ処置ながらも電気毛布などで物理的にも暖めなければならないでしょう。

 これらは邪気論であっても全身状態の把握に応用でき、当然ながら標治法へも応用できます。陰実に関しては後述します。

 

3.3.2 生気論でも邪を払うことは必須

 「陰経から補って後に陽経から瀉す」が経絡治療の王道であり、私が下積み修行をさせてもらったのは大量に置鍼をしてから最後に本治法を行うという特殊な治療パターンの師匠だったので、仕上げ段階で症状が残っていると訴えられたなら脈診で陽経に残っている邪を探し出して瀉すことにより対処をしていました。本当に症状が取れるまで行うのですから、瀉すことの重要性は身に染みついています。けれど菽法脈診では陽経をどのように診察していくのか「新版漢方鍼医基礎講座」を読んでも両論併記されているので臨床家ごとの対処となります。

 ここはあくまでも私の臨床ですが、東洋はり医学会時代に背部の仕上げに円鍼を行うことを教わり実践しているとそれだけでは物足りないので、円鍼の前にローラー鍼も行うようになっていました。これはお灸ができない弱点を補填しているだけでなく陽経からの瀉にもなっており、経絡治療の王道と結果的に同じことをしているのだと理解できます。お灸と組み合わせている臨床スタイルも、同じことでしょう。生気論であっても瀉の要素は重要であり、意識せずに行ってきていただけだと考えられます。

 邪気論から治療をしても標治法はほぼ同じことをしているので、邪の排除をより積極的に行っていることになります。

 

3.4 邪気論での治療

 井穴刺絡は邪をまず排除してしまう治療法の代表であり、最終目標は胃の気の充実した身体へ戻すことですから邪気論は特別なものではなかったと今からは思えます。小児鍼にしてもまずは陽経をたたいていくような施術が一般的で、瀉的な手法から入っていますから実は馴染み深いものだったのかも知れません。

 

3.4.1 頸部で軽微な邪を払う

 これも私の取り組みの離しになりますが、邪気論への取り組みは、「邪があるのだから脈は跳ねているはず」と少衝強引なルールで追試を始めました。前提となるルールがなければ患者さんを逆に苦しめてしまうかも知れませんし、自分の理解の中へ落とし込めていけないからです。

 それで跳ねている脈の時に邪気論で治療をすれば本治法が素早くなることはわかってきたのですけど、菽法ぴったりの脈状を毎回作り出せません。正確には近い状態まではできるのですけど、生気論ほどぴったりというものができあがりません。あるときに側頸部の硬結がものすごく強い患者さんがいて、後半の標治法までに少し何かしておいてあげた方がいいのではとサービス精神で当時タッピングへと使い方を変更したばかりの邪専用ていしんを施したところ、脈状が大きく変化して菽法ぴったりの高さへ整ってしまったのです。「なにこれ?」という感じでしたが、少し冷静に考えれば答えはすぐ出ました。

 邪気論で治療をするということは病因の排除であり、本治法は原理的に一本だけということになりますが、一本だけで邪がすべて処理できるというのには無理があります。細かな邪はどうしても残ってしまうのであり、そこで陽経がすべて通っている頸部から細かな邪を払った結果が、菽法へぴったりの高さの脈ができあがったのでしょう。

 実に簡単な施術ですからすぐ追試をすると、苦戦していた菽法の高さへぴったりと脈が合うようになり、これで一気に邪気論での治療に幅と自信が持てるようになりました。夏期研愛知大会の直前に名古屋での森本先生が講師の研修会へ参加をして確認をしたところ、後頸部や後頭部で調整することを最初にされており同じステップを踏んでいるのだと理解できました。邪気論を活用する重要なポイントだと捉えています。

 生気論での治療へも応用してみると、これもスタミナのある脈状へと変化できます。ローラー鍼で行ってきた瀉的な施術を前もって行っているのであり、自己治療をしていると頭から熱が抜けていくのがわかってとても気持ちがいいです。

 

3.4.2 頭部で邪を払う(ゾーン処置)

 母親の代から少しでも疲れたりなど何かあるとめまいが発生して30年以上も悩まされているという患者さんがいて、眼圧が高くなり頭重が今ひとつのときに頭へ集毛鍼をして回復した自己治療から患者さんへも施してみると、見事に的中したことがあります。これは気を間引いてやることにより暴走を制御できたのですけど、頭痛・頭重と頭部は邪が停滞しやすい箇所です。事務職の人だけでなくパソコンやスマートフォンを使う時間がとても長くなっていますし、テレビも画面がめまぐるしく変化して頭には邪が蓄積してしまいます。これ以外にも中国の頭皮針は脳溢血で麻痺していたものが回復できたという驚異的な報告をしていますし、学生時代に経験した指圧がとても気持ちいいなど頭部への施術には漠然と「使わないのはもったいない」という気持ちがありました。 「医道の日本」で紹介された山本式という頭皮針の記事は、心を動かされるものがありました。

 WFAS2016の実技公開で スポーツ鍼灸として紹介されたアキュゾーンセラピーを見た瞬間、それまでの漠然と蓄積しておいたアイデアが一本にまとまりました。公開されていた実技では頭部で用いる経穴はわずかであり毎回使うのでもありませんが関連性が強調されており、頭頸部は必ず邪が存在しているのですから一つの固まりとして捉えて処置すればどんな患者さんにも適応できる経絡の流れの改善処置が開発できると直感しました。

 今回は治療パターンの整理が主目的ですから手法や具体的実技は割愛しますけど、側頸部で残っている邪を排除する延長戦で非常に気持ちよく自己治療で行うと背部の流れがよくなることを実感します。局所への標治法は劇的に数を減らすことができ、しかも持続力は飛躍的に向上しています。書き方は少し悪いですが、下手に標治法の中で営気の手法から邪を排除しようとするよりも、ずっと安全で確実に処置できますから余計なことをやらなくなりましたし、滋賀で追試をしてもらっていても余計なことをする人がいなくなりました。さらに助手がいれば標治法を分担して並行して行えるようになり、治療時間も劇的に短縮ができる技です。邪気論の発想が根底にありましたからすぐ組み合わせて実証実験へ入れましたし、手法の基礎はめまいの時の集毛鍼ですから生気論へも少し量を減らせば取り入れられるとすぐわかりました。現在は常勤助手がいない環境なのですけど、ほとんど人数を落とすことなく臨床がこなせるようになった必殺アイテムです。

 

3.4.3 陰実証は邪気論の治療

 邪気論での治療がスムーズになったもう一つの要因は、私の大きな勘違いが解消されたことです。陰実証、つまり肺虚肝実証と脾虚肝実証は池田先生の理論から学んでいたときより組み込まれていたので生気論だと決めつけていたのですが、実の解消が目的であり営気の手法が主体なのですから邪気論へ分類すべきだと気付いたのです。今回の切り分けツールでも陰経の邪気論として判定できますし、悪血があるのですから一番深い階層に間違いありません。

 先ほど四大病型の分類は寒熱の把握だけでなく標治法も連動して割り出せると説明したのですけど、陰実は「陰気が不足したところへ陽気が走ってきて充満・停滞した状態」との定義があり、寒熱を一口では表現できません。初期では激しい症状を出すので陽盛(陽実)と、慢性になってくると熱量が下がって陰虚と同じような状態を表し、もっと慢性になると悪血は全体の循環を阻害して冷えるようになり陽虚と同じような状態を表すのですが一番内部には熱がこもっています。つまり陰実特有の寒熱状態というものがないのでわかりにくくなっているのですが、どの程度の状態かを診断して同じ方法で対処すればいいともいえます。

 

3.4.4 疑問点は残っています

 前回の夏期研大阪大会から全面的に取り組むようになった邪気論ですが、菽法脈診になり虚実の判定を脈では行わなくなっていたものが突然復活したことに一番戸惑いました。体質の虚実や病全体としての虚実は総合判断ですぐわかるのですけど、また総按で脈全体としての虚実もある程度はわかるのですけど、邪気論での証決定を行うのに最初から実を探しているのですから直接関係があるのかは未だに疑問です。

 また何が何でもとまではいいませんが、瀉的な方法が優先順位の第一位というのも疑問です。私の臨床でも邪気論の方が90%になってはいるのですけど、診察の段階はすべて同列に扱います。診察の結果を受けて診断するのであって、診断をするために診察へ取りかかっているのではないでしょうか?

 

4. もう一度、治療パターンの整理

 今までのことを整理し治します。ざっくりした表現ですが、押し流してやれば全体が整ってくるというのが生気論、邪魔者があるので直接排除しようというのが邪気論、これに陽経からと陰経からのアプローチがあります。

 表面からは「陽経から生気論」「陽経から邪気論、そして「陰経から生気論」「陰経からじゃ奇論」の順で深くなっていると考えます。一番深いのが悪血を伴っているのですから陰実です。どの深さに病があるのかと考えれば、柔軟に治療が組み立てられるのでありパターンも当てはめやすく、そこへ到達しやすいように時邪を応用した切り分けツールはいかがでしょうか。

 

4.1 カルテの記入方法

 ここは完全に二木個人のやり方を紹介しているだけなので、今後の用語整理に役立ててもらえればという程度のセクションです。

 まず膨大なカルテデータがあり長らく池田理論を追試して記入してきましたから、生気論は「肝虚陰虚証「肺虚陽実証」のように継続して記入しています。邪気論が輪唱できるようになった当初は色々と迷って今からすれば「なんじゃこれ」と苦し紛れの表現をしていたのですけど、本部学術部の提案をそのままもらって「肝病」「腎病」「肺病」「脾病」は邪気論を表現するものとしました。

 カルテを閲覧するときに一番役立つのは経過の部分ではあるものの特に選穴が次回の治療でわかっていると非常に参考になるので、一番目だけは書き添えるようにしています。「肝虚陰虚証、中封」とあれば生気論で中封を用いたのであり、「肝病、中封」は邪気論で中封を用いています。「肝虚陰虚証、右偏歴」だと生気論で数脈であり陽経からの治療で右大腸経の偏歴を用いたこととなり、「肝病、右三間」だと邪気論で数脈の陽経から右大腸経の三間を用いています。陰経はオーソドックスな男は左から女は右からの治療側でない場合だけ、左右を追記しています。陽経からの治療でもオーソドックスな左右はかなり見極められているのですが、男女に関係なく用いられるのが不思議なので今のところ必ず書き添えています。

 その他に四大病型を治療法のところへ書き込めば概ね標治法がわかることになり、特殊なことをしたときだけ追記すればいいことになっています。脈診と腹診の項目もひな形作成の時に設定したのですが、ここは特殊な状態でない限りこだわってしまうと記入が終わらないので浮沈や遅数だけあっさりしたものにしてスルーしています。

 

5 おわりに

 今回提案した切り分けツールでの弱点としては、生気論と邪気論のどちらも咀嚼できていなければならないことでしょうか?「瀉法でまずは治療をするんだ」「六十九難がまず大原則だ」などなど、とりあえずの入り口を制限している人には受け入れがたいかも知れません。けれど近江商人の血を引く私としては、引き出しは多い方がよく患者さんはどんな方法でも治ればいいのですから、切り分けツールでまずはターゲットが絞れればその後の病理考察が楽だと捉え、どちらも同じ比重で活用しています。

 

付録、現在用いているていしんについて

 現在文字通り用途に合わせてデザインをした、「二木式本治法ていしん」「二木式標治法ていしん」に加えて、「二木式邪専用ていしん」の三種類を使い分けています。本治法ていしんは示指をしっかり伸ばして鍼先と同じ方向になっていることが重要なので、竜頭部分に平面がつけてあり素早い操作を抑制するために長さは45mmにしてあります。標治法ていしんは55mmと長さは持ちやすく素早い手法が可能なものの、竜頭部分を八角形にすることで余計な力が入らないようにしてあります。ていしんとしてはどちらも太い部類なのですけど、「太いからしっかり握れていい」と初期タイプの時に意図したことと全く逆の反応が戻ってきたのは大きなショックであり、指の延長として持ってこそのていしんですから力の入りにくい構造へ改良をしたのです。途中で段差がつけてあるのは気の流れる方向の制御を容易にしているのであり、ここは森本式ていしんのアイデアを継承させてもらったもので了解を事前に得ています。

 邪専用ていしんのきっかけは、標治法ていしんの八角形に到達する前にバット状のものを試作しており、55mmの初期型で太い竜頭部分を強く押し当てて邪を払うことは既にやっており成績もいいのですが痛みが伴うので「これだけ太さがあるのなら」と、半分冗談で彫り込みを入れてみたのです。狙い通り煙突のように皮膚へ立てると痛みを感じさせることなく邪の排除はできるのですが、恐ろしいほど気そのものが抜けるので先端の細い側は使わない・補うことは目的に入っていないことを明確にするため「邪専用」という命名をしました。

 ただ、邪専用ていしんは臀部などの強烈なこりにだけ補助的に用いるというのもあまりにもったいないので、恐ろしいほどの勢いで気が抜けるのなら邪だけが排除できればもっといいのではないかと小児鍼のようにタッピングの動作をしてみると、これが狙い通りの作用をしてくれたのです。肩甲骨周囲や腰など強烈な硬結へタッピングをしていると、知熱灸をしているのではというほど暖かみを感じてくることも珍しくないのですけど、これは邪が排除されたことによって停滞していた悪血も動くことからでしょう。邪を局所から排除しているだけなので見た目の派手さよりもドーゼはあいまいでよく、患者さんの同意の下で実験をして汗が完全に出てしまったならオーバーであり、もう少しアプローチしたいと思っていても汗がにじんできたならすぐ終わりにしています。そしてゾーン処置が生まれてきました。これほど用途が広がるとは、制作者として驚いています。




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