この文章は 「にき鍼灸院」院長ブログ からの転載です。

ていしんを試作中(その2)、森本ていしんからオリジナルへ


森本ていしんを中央に、試作品第一弾  前回ていしんを試作中(その1)、小里式ていしんについてでは、緊急時の治療でていしんが大活躍してくれたことを強調するあまり、ていしんが万能のようであるかのような表現になってしまいました。
 しかし、道具で治療が決まるものではなくあくまでも道具は道具です。治療家の腕を引き出すものが道具であり道具がなければ治療はできないのでこだわってオリジナルを試作してもらっているのですけど、それを使いこなすための努力を怠ってはならないことを改めて書き添えておきます。
 また、道具におぼれて治療法そのものが修得できなかったというようなことは自己責任ですから、お気を付けください。

 それで漢方鍼医会創設と同時に私は参加をしてきたのですけど、これは漢方医学にも病理考察を取り入れようという主張に賛成したことと学術の固定化をしないという面が大きかったからです。
 当然ながら道具に対しても固定的な意見を押しつけられることはなく、若葉マーク鍼灸師に贈る私の思い出の症例 刺してもダメなら触れてみなでも「患者さんは病気が直して欲しいのであって決して鍼を刺して欲しいと願っているのではない」と少々オーバーに書いてしまいましたが、正確な衛気への手法に対してていしんを用いることが私にとっては有利でありていしんのみの治療へと自然に移行していったことが読み取っていただけると思います。

 そうしたならもっともっと先進的な先輩がすぐ近くにおられて、大阪漢方鍼医会の森本繁太郎先生は既に「森本ていしん」という形で、オリジナルの道具を作成されていたのでした。
 写真の中央にあるのが「森本ていしん」で材質は色々製作されていますけど私が主に使わせてもらったのは銅でした。、長さは1寸3分と同じになる55mmであり直径は1mm、途中から先端に向かっては0.8mmと細くなっています。この他にも先端が平らになったものなど、材質以外にも数種類存在しているとのことです。
 この途中から段差を付けて細くなっているというのが最大のポイントで、気は太い側から細井側へ流れる性質があるので気の流れをコントロールしてくれています。
 また太さについても従来のていしんよりずっと細く、指を伸ばして沿えやすくしてくれていることにも手にした時には衝撃を受けました。

 それで臨床投入してみると当然ながら成績は上々で、既にこの頃には毫鍼での置鍼をしていなかったのですけどイルミネーション的にシャーレには毫鍼を並べていたのですが排除のきっかけになりました。
 また転換手法も研究中ではあったのですけど、森本ていしんにより修得ができたのではないかと感謝しています。
 それから福山で開催された伝統鍼灸学会では一日目の一般発表に続いて二日目の実技公開まで担当させてもらったのですけど、ていしんのみに夜実技ということでそれなりに注目を浴びること友成ました。

 これだけ恩恵に浴して感謝している森本ていしんなのですけど、あくまでも森本先生の道具であって私の道具ではありませんから、手の形状や臨床スタイルからオリジナルへ改良したいという気持ちが出てきました。
 改良点は術者の手が触れる龍頭部分で、ここを平らの形状にしたいということです。指を沿えて真っ直ぐにのばせる形状を計算されているものの、鍼灸学校では実技時間が大幅に削除されていることもあって鍼の握り方も知らず、実習時間以外に鍼を握ったことのない人たちは握りそのものが強すぎるのでていしんの真価を発揮できていないという面を見てきました。また私自身も転換手法の時に滑らかに動かそうと意識しすぎて森本ていしんそのものを回してしまう癖があり、時には鍼が皮膚から浮いてしまうことにもっと工夫せねばと感じ続けていました。
 それから私の周囲では大きさに対する意見は聞かなかったものの硬さに対する意見を話す人がいて、道具ですから慎重に扱わねばならないのは当然ですが確かにもう少し硬い形状でもいいと感じました。

 改良版のアイデアそのものは今から一年以上前に出ていたのですが、第十五回漢方鍼医会夏期学術研修会滋賀大会の準備があったり何となくまだその時期にないような気がしていたので先延ばしにしていたところ、柿田塾の柿田先生の話を参考に龍頭の頭を深遠にしてみようとアイデアの追加をしています。
 それで試作品第一弾が、森本ていしんを挟んで上下の二本です。
 違いは龍頭の平面が一つしかなく片方は丸くなっているものと、両方が平面になっているものです。
 私はどちらの形状も好きですし、この試作品の段階では気を伝えるのには片方だけが平面になっているものの方が有利ではないかという印象でした。

 すぐ臨床投入したのはもちろんですが、助手へ治療をしたり自己治療をしてその違いと効果についても確認してみました。
 結果としては太さがある分だけ気の伝わり方も図太くなっているという表現が、一番リアルでしょう。毫鍼は刺鍼されますから深い部分へも気を補いやすいですが気を漏らす危険性も高く、ていしんは絶対に刺さらないために気を漏らす危険性は小さくなりますが深い部分へ気を補うにはテクニックが必要です。そして毫鍼は物理的に組織を動かす力を持っていますけど、ていしんはそれ自体で物理的変化をもたらすことができません。このていしんの弱点を太さがいくらか補ってくれますし、指がよりしっかりと伸ばせるので敏感な助手では「ドーンと気が入ってくる感じがした」との感想でしたし、施術が終わってからもかきむしられるような気の流れを感じ続けていたとのことでした。
 自己治療においても持続力が向上したような印象を受けているので、気の伝わり方が図太くなったような感じがしたと書きました。

 しかし、試作品はまだ第一段階です。私のイメージ通りだった部分もあればまだ違う部分もありますし、実際に手にしてみてイメージ以上だった部分もあります。
 シサクヒンヲどのように改良していこうかという話を、次回以降は報告していきます。


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