この文章は2008年9月1日の院長ブログからの転載です。


第15回夏期学術研修会を無事に終えられて


 この文章は漢方鍼医会のメールマガジン、『月刊漢方鍼医』に投稿した所管です。
 携帯電話で受信されている方もおられるので原稿をかなりカットしましたから、幻のフルバージョンとなります。



第15回夏期学術研修会を無事に終えられて

滋賀漢方鍼医会(実行委員長)  二木 清文


 第15回漢方鍼医会夏期学術研修会滋賀大会に参加された皆様、お疲れさまでした。そして、本当にありがとうございました。
 「日本のへそ」といわれる琵琶湖を抱えて東西どちらからでも中心には位置している滋賀県ですが、今まで地方組織が主催する夏期研といっても大都会であり空港も新幹線の主要駅もない田舎でどれだけのことができるのか・どれだけの人が集まってもらえるのか・ハードウェアはどうするのか・肝心のソフトウェアも主導できるのかなどなど、そしてマンパワー不足の状態で不安というよりも恐怖を感じながら二年前にプロジェクトをスタートさせたのでありました。
 その不安は的中して、まずは東京での講師合宿に使用してきた本部例会の会場が変更となったので計算すると経費が三倍もかかるのでとても負担しきれないので別会場を探す作業が必要で、必死で見つけた会場も一回目の合宿を終えて実績判断から同じ会場がやっと二回目を押さえることができて継続利用の目処が立てられたというのが実際でした。初めての経験はまだあって郵政民営化で振り込み手数料も三倍となり、おまけに契約寸前まで進めていた当初の会場が第14回夏期研寸前でアウトということが判明して閉会式でのパンフレット配布さえ不可能だったかも知れないという、トラブルに見舞われ続けた準備状況でした。
 そして、やはりというか最も困難だったのはソフトウェアの構築で、毎年の夏期研や本部研修の流れから「証決定に関することをテーマにしなければ」と実行委員長の権限で推進したのですけど、個人技も含めて豊富に蓄積された中から"漢方はり治療"のために伝承すべき事項をピックアップし組み立てる作業というのは、長時間に渡る学術委員会の会議と実技を通して講師陣からいただいたアドバイスによりまとめられたものであり、特にスカイプによるインターネットを通じての会議が実施されていなければ今回のソフトウェアは成立していませんでした。学術委員会でまとめられた『証決定の要点』は、次の通りです。
 「患者の主訴・愁訴を気血津液の変化として捉え、それを四診を通して病理考察し、いずれの蔵府に関わる病症かを弁別し、脉状診との整合を図った上で証を決定する。証には選穴や手法も含まれる。」

 今回の夏期研で新たに導入された実技として、腹部を用いての衛気・営気の修練法があります。基本刺鍼で充分に型を身につけた上で、モデルの腹部を借りて衛気・営気の流れている深さを診察し適合する手法を行えば当然身体全体は改善するというものです。これを応用して適合しない方の手法も行うことにより客観的な手法修練ができるのです。手法を客観的に評価できるツールが得られたことは、漢方鍼医会の会員であれば間違いなく同じ手法を修得できるようになったも同然で、私的には画期的なことだと考えます。鍼灸学校乱立で手法が教えられなくなってしまった現在、漢方鍼医会の存在意義は非常に大きくなったと思いませんか?
 もう一つ改革として、治療をしようとする刑欠に対して警察を行い証決定が正しいものかどうかを客観的に判断するようになりました。証が治療家の中では決定できてもまだそれは仮説の段階であり、擬似的に経絡を動かして本当にこの証でいいのかを客観的に評価する必要があり、そのための軽擦です。ベテランになると「このように治療をしたい」と念じながら経穴を直接触ればかなりがそのように動いてしまうので、より客観的に病理考察と合致した証決定を行うためのステップとして加えられました。

 基調講義で「証決定の要点を基本にどのような目的意識を持ち自分のレベルに合わせた診察と治療を進めるかが証決定への手順だ」と結論させて頂きましたが、夏期研を終えてから診察をしている時に目的意識は明確になっているでしょうか?
 イチロー選手と福留選手の話もしました。ヒットを打つための理論を持って実現させているイチロー選手の姿が理論を持って患者を治癒に導くことを実現させる鍼灸師のスタンダードなスタイルではありますが、一人で様々な役目を演じている鍼灸師なのですから時にはヒットだけにこだわらず最善策なら何でもやる福留選手の姿もまねなければなりません。しかし、ホームラン狙いは当たればよいのですが空振りはもっと多くなるでしょうから、これは医療人の姿ではありません。
 初心者には初心者なりの証決定があり、証決定ができれば治療もできることになっているのが漢方医学の特徴です。もう少ししたなら・うまくなったなら実際にやってみようではなく、臨床を通じなければ技術は身に付かないのです。ベテランの先生方もどんどん進化されているのですから、特に初心者の方は目的意識をしっかり定めて現段階での「証決定への手順」を自分のものとしてください。

 "漢方はり治療"は研修を通じて我々が身につけた技術ではありますが、誰のためのものかといえば患者さんのためのものです。それも我々が身につけたと言っても古典の時代から蓄積された先人たちの偉業があってのものであり、多大なる患者さんの犠牲があってのものでもあります。治療家の方が中心になっている技術ではないのです。つまり、一人の人生は短いのですから究極的に我々ができることは、積み上げられた先人たちの偉業に一つ石を乗せることだけなのです。
 今回の夏期研で皆様の技術は向上したはずなのですから、同時に患者のための心がさらに豊かになって頂けていたなら幸いです。

 最後になりましたが二日間という時間は短いようで長く、勤務先から休みがでないとか託児がないとかなどで誰もが参加できる環境には確かにありません。けれど月例会以上に熱を入れて毎年夏期研を実施してきているというのはそれだけの成果を着実に残してきた証拠なのですから、鬼に大笑いされても来年の夏期研へ向けての参加準備を皆さん今から始めていきましょう。


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