《臨床家養成講座》

感冒、カゼ症候群の治療

(滋賀)二木 清文

 

はじめに

 カゼの症状については皆さん百も承知でしょうから言いません。ただ、この後出てくる四大病型については、しっかり把握することが治療のポイントになってくると思います。

 

汗吐下和温について

一般的な治療についてまずお話します。正しい証を立てて標治法は軽めにすること。そして汗を出したり、吐瀉や下から便を出すことで良くなることも経験しています。しかし、必ずしも汗をだせば良いという事でもありません。それは出たがっているものは出し、出たがっていないものは出さないという見極めが必要です。典型的な脉では突き上がってくる脉はそうですし、Z理(そうり)が閉じているような状態、脉が閉じているような状態の時はこもっているものを出す事を考えれば、大雑把ですけど良いだろうと思います。

それと、四大病型に話を移す前に高熱時の解熱の特効穴を伝えておきます。これは有名ですけど赤白の間、つまり指の間にある水かきのところです。ここに瑚I(ていしん)でも毫鍼でも良いですから、ちょんちょんちょんと三回くらいやってください。足りなければ両手、両足もやってください。ほとんどの場合は一時的にせよ解熱はします。親に子供の熱を下げる方法はないですかと聞かれたら、爪楊枝でこうしなさいと教えてもそんなに問題ありません。これでも下がらない場合は指先の指腹を切って血を出します。これは持続性があるかは保障しませんけれども必ず解熱します。

 

カゼと四大病型について

四大病型は陽虚証と陰虚証と陽実証と陰実証のことです。一般的にカゼは陽実証から始まります。急に熱が出てきて頭が痛い等です。この場合は陰経を衛気でしっかり補って、陽経を営気の手法で処置します。背部には鍼数を少なくして、充満停滞している陽気を発散させる目的で発汗させる手法を用います。これが少し慢性化していくと陰虚証という状態になります。

陽気は活動の力ですから実の状態が無くなると今度は冷やす力が無くなってきます。カゼが一週間続いている時などは陰虚の状態が多いと思います。この場合には陰経をしっかり補って、陽経も衛気の手法でしっかり補うことが多くなります。この場合も脉は浮数ですから、手早く治療を終えることが大切です。陰実証についてはカゼが慢性化してなることはそう多くは無いので割愛します。

今回メインにしたいのは陽虚証のカゼです。その前に真熱の説明をします。皆さんも経験あると思いますが、三十九度とか四十度くらいになると体がガタガタ震えて布団を何枚被っても寒い状態になります。これは何故でしょう。体温計に現れる熱というのは主に表の熱です。人間というのは自覚的には裏の熱しか感じられません。ということは体表が三十九度、四十度あっても、体内では冷えているからバランスを取ろうとして表面が発熱している状態なのです。陽虚証の場合にはこれが逆転します。陽気が少なくなると周りの陽気を集めて盛り上げようとします。ですから熱が乱高下する場合は陽虚証だと思った方が良いと思います。

陽虚証のもうひとつのポイントは冷や汗です。一時は温かい汗でもすぐに冷たくなります。裏の部分に熱がこもっているために表が冷えるのです。本人は熱いと言うけれど体温計で測ってみるとそんなに熱は無く、夕方になると微熱になります。これが真熱です。これは陽虚証です。陽経に営気の手法を用いてはいけません。陰経をしっかり補って陽経も衛気の手法で補います。背部にはあまり鍼をしません。

 

喘息について

喘息には色々な鑑別がありますが、喘息と書かれていればそれは気管枝喘息を指します。その他に心臓喘息、腎臓喘息などがあります。

腎臓喘息は滅多にあるものではありませんが、腰椎が前湾し過ぎていて、特に仰臥位になると腎臓が圧迫されて咳がでてきます。

心臓喘息は身体の芯からで出るような咳をします。座っている時に身体を震わせるようにする咳です。西洋医学的には心臓が血液を輸送できないために身体を震わせているそうです。治療としては本治法をするしかないのですが、標治法としては肩や肩甲骨の周囲の凝りを緩めることと、脊中の際なども必ず凝っていますから適宜治療してください。特に経金穴は寒熱往来や喘咳に良く効きます。心臓喘息で心や心包が絡んでくると脾虚で商丘、間使という組み合わせで使っていたと記憶しています。

気管支喘息の鑑別は、起座呼吸で楽になるかということです。気をつける点は、楽な姿勢になってもらうこと、痰を出すようにする、ハウスダストを吸わないようにする、小児であればアレルギーの検査をして食物アレルギーがあれば摂取しないようにする等です。

喘息とは違いますが似ている症状として肝虚肺燥証の時があります。血中の津液が不足して虚熱が発生し、肺の津液を乾かすという病理で起こります。脉は沈んでいて、特に肺は沈んで硬くなっています。症状としては、就寝して身体が温まってくると咳が出て寝ていられなくなります。昼間に咳が出るのか、よく温まったら咳が出るのかということで、喘息と鑑別してもらいたいと思います。治療としては肝経と腎経を補い、補助穴として上焦と中、下焦の流れを良くするために膈兪を用いたりします。

 

【質疑応答】

清水 解熱の治療は全ての指に行うのですか。

二木 そうです。

新井康 二木先生が言われたのは汗吐下和温の話ですが、全ての発熱が汗を出させたり吐き下しをさせて良いという訳ではありません。その見極めが大切です。

神岡 ノロウイルスなどが流行っていますが、そういう時にも吐き下しはさせた方が良いのでしょうか。

二木 脱水症状を起こしますから水分は取る必要がありますが、ずっと吐き下しをする人には食事をやめさせるのが効果的です。食べ物を入れなければ内臓が消化吸収に使う力を自己修復に用いる力に集中できます。今は栄養バランス食品があるからそれを少し摂らせればいいです。

鈴木 感冒の時の熱を一時的に下げるための瀉血は、井穴刺絡では駄目なのですか。

二木 井穴刺絡とは少し違います。指腹にしてください。補足ですが陽虚証の時で熱が乱高下しているときに三焦経の井穴刺絡を用いることがよくあります。C血(おけつ)によって陽気の巡りが阻害されていることによって起こっているときに使います。

新井 喘息で発作を起こしている場合、治療家の方が慌ててしまい、しっかりとした証立てができないというのが一番困ることです。喘息のような体質の病気は、治まってもまた起こるという事を繰り返しながら段々と体質が改善していきます。私が喘息で注目しているのは、呼吸のどちらが苦しいのかを聞き、吸気時であれば肝腎、呼気であれば肺脾、心包を目安にするのも大事だと思います。




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