第52回日本伝統鍼灸学会 一般講演
恥骨の異常所見の重要性と、それに対する瀉法鍼の有効性
滋賀漢方鍼医会 二木 清文
1.目的
近年股関節に強い痛みがあり、側腹部から大腿部にまで痛みが及んでいる患者が多い。しかも、西洋医学の検査を受けても何も発見できず、異常がないからと経過観察しか言われない。
この様な患者の恥骨には異常所見を認める場合が多く、骨の異常として瀉法鍼という道具を用いると治療効果が高く、症例報告と共に検討をしたい。
2.方法
私が用いている瀉法鍼とは、形状は鍼管からわずかに丸みを帯びた鍼先が出ているだけで、かなり強く叩き込んでも刺入に至らない微妙な構造である。考案者は赤羽幸兵であるが、残念ながら原型はわからなくなっている。押し手で挟みながらしっかり固定し、皮膚に垂直に立てた瀉法鍼を、いわゆる「デコピン」の要領で爪で弾いている。出血に至らないので、思い切って弾いて構わない(ここで会場でのデモンストレーション)。
少年野球の子供の突き指に偶然用いて、瞬間的に痛みが解消し、その後も再現性があった。刺鍼されないのに深い部分へ影響が到達できることから、局所の血が強引に動かせているという仮説が成り立つ。
3.結果
捻挫や肉離れという局所の血の変動を伴う外傷に近いものが、瀉法鍼を用いることで瞬間的に改善できる。局所の血が強引に動かせることから、画像診断もある骨折の回復を日々の臨床で繰り返しており、恥骨の異常所見への応用にも迷いがなかった。
症例
患者は20代後半の女性。四ヶ月前の出産後から節々に痛みがあり、特に右膝の痛みが強く、右半身全体がアンバランスだと訴える。次第に倦怠感も強く、三時間ごとの授乳が非常につらい。美容整形の看護師をしており、病院で検査を受けたが異常なし。精神的にも憔悴してきて、胃の気脈が薄い。ただし、両方の寸口が同時に強く触れ、この脈状は骨の異常の脈状として臨床してきている。
症状が多岐にわたり過ぎて困ったが、骨の異常の脉状を手がかりに、膝は腫れていなかったので、アンバランスの中央ということから恥骨を触診すると、正中よりやや右側で陥没している異常所見がすぐ見つかった。
産後間もないこともあり、?血と痛みを考慮して難経七十五難型の肺虚肝実証とし、本治法の直後に恥骨への瀉法鍼を行った。膝の処置は、特にしていない。
4. 治療成績
瀉法鍼を行いベッドから立たせると、真っ直ぐ立てることに驚嘆の表情。実家へ戻ってくる一ヶ月に一度ずつの治療ながら、三度で問題なく日常生活が送れるようになった。
同じような恥骨の異常所見でも画像診断で亀裂骨折が確認できたものは、30年前の出産後から強い下腹部痛を訴え続けていたものだけで、今回の症例では得られていない。三度目の時にくしゃみをすると恥骨へ響くのがよく分かるということで、今回も状況から亀裂骨折だったと判断できる。
5.考察
股関節の痛みでも、場所が本人もよく分からない場合は、恥骨の異常が非常に多い。また、差し込まれるような腹痛として現れることもあり、診察対象として重要である。
このような異常所見は、まず部位をしっかり特定することが大切である。見つけ方は、取穴時のような指を立て気味ではなく指を骨と並行にして、さらに少し転がすと、ワイパーが動くような感じで、恥骨の上を滑っていけるようになる。他の部位の骨を探る時にも、同様の指の使い方をしている。同じ指頭でも場所を変えておくと感覚の混乱がなくなる。個人的には「部位ごとに専門性をもたせる」と表現しているが、指の当て方を工夫しながら、津液や血など直接に探れている(ここで会場でのデモンストレーション)。
私の臨床では、両寸口が同時に強くなっている脈状で先に見抜けているので確認という感じであるが、、離れた場所から打診して響きがあるかどうかが骨折の目安である。
瀉法鍼は血を強引に動かせる反動で気が抜け続けるため、ローラー鍼で気が抜けないようにする処置が欠かせない。何より異常所見を見抜く力が重要で、脈診せず治療を行うことは想定していない。
6.結語
恥骨の異常に対して、瀉法鍼を行うことから症状が顕著に改善することが非常に多い。
キーワード
血、瀉法鍼、骨の異常、恥骨、脈診