知熱灸施灸点選択とその病理考察

二木 清文

 

1.はじめに

われわれの実践するものは「鍼灸術」というくらいですから、鍼と灸はセットで用いて最大の効果を発揮できるものと解釈できます。ところが、鍼の選穴法に対する研究は多く行われているものの、反して灸に対する選穴法についてはあまり見あたらないように感じます。特に現代の透熱灸では特効穴的な用い方に終始しているように感じます。

古代では経絡の発見に灸を用いることで大きく進歩をした記録もあり、経絡を用いるには灸は不可欠だったはずなのです。これは鍼の材質が進化し、補瀉の概念がより明確化した為に、治療手段の主役が灸から鍼に移ったためではないかと想像されるのです。

 

 

2.研究方法

知熱灸による臨床実践を通して治療効果の病理考察を行いました。

知熱灸の用い方でよく知られているものには、やはり特効穴的な用い方ではありますが眼精疲労に対して瞼の上から施灸したりギックリ腰に対して筋肉の正常部分と異常緊張との境目に施灸するというものがあります。これを病理から解釈すると、肝は目に開口するとあるように肝の不調が眼精疲労となって現れたものを施灸によって改善し、筋の異常緊張も筋を主る肝の不調を改善できるからではないかと考えられます。つまり、知熱灸はその治療形態も含めて肝と肝の蔵する血の変動に有効だと考えられます。

これを延長して局所のお血に用いれないかと注目し、成果をげることができました。

 

 

3.お血部位の触察について

お血の触察方法ですが、今までの実績では研修会での訓練をしただけでもすぐ実践投入できる人が大勢いますから、特殊な触覚ではないと先に断言しておきます。

具体的には病理的に井穴刺絡の適応と判断した井穴の感触を覚え込むことです。本当に井穴刺絡が適応しているか否かは、短時間で構いませんから該当する指を強く背屈し放した瞬間に紫黒色になることで視覚的な確認ができます。当たり前の話ですが適応していない井穴であれば鮮紅色を呈します。また脉診でも井穴を強く押圧すると、脉状が瞬間的に改善することで確認ができます。脉状の改善は初心者でも「脉が明るくなった」と思わず叫ぶくらい明瞭なもので、特に脉診を臨床するわれわれには有効な方法だと思われます。この触覚を指先で覚え込めば、身体中どこでもお血を触知することができるようになります。

余談になりますが、私は視覚障害者ですが助手時代には晴眼の師匠より「お血はないのか探してくれ」と指示を受けれるくらい、視覚に頼るよりも逆に触診の方が素早くお血を探せるようになりました。その他の容易に触れられるお血反応としては、肩こりでの天や膏肓が顕著ですので、追試確認をしてみてください。

コツとしては同じ指先であるが故に、取穴をする部位・お血を触知する部位・圧痛を探る部位・腹診をする部位など微妙でしょうが触察位置を変えておけば、混乱がなくなると思われます。

人体の触察とは、慣れない人が行うと限られた範囲を細かく何度も繰り返し探りたがるものですが、これでは迷いが生じるだけで診察になりません。全身を流すように触診することで、初めて「ここは違うぞ」と判別できるもので、最初は大きくから徐々にピンポイントに絞り込めば飛び抜けた感覚は要らないはずです。さまざまな反応の中からお血を捉え、施灸点として選択しています。

 

 

4.お血反応の区別と知熱灸の壮数

助手時代に既に発見してたことですが、背部の処置を完了してもお血反応が頑固に居座るケースもありましたが、散鍼程度ですぐ触れなくなってしまったケースもあります。また膝の内側や後頚部などでも、同じ現象が確認できます。つまり、散鍼程度で解消される軽いお血と刺絡を用いなければ取り除けない程の重いお血があり、知熱灸を用いるのはこの中間形と判断して臨床をしています。

知熱灸はランクがかなり下の荒い艾を空気を抜くように力を入れて丸め、小指頭大の三角錐(さんかくすい状に形成したものを用いています。施灸の前後は特に何もしていません。通常は割程度燃えた「気持ちいい暖かさ」でピンセットを用いて取り除きますが、瞼に施灸するときには割程度です。残念ながらこの方法は視覚障害者では施灸できないので、臨床では施灸点を取穴するだけですべて晴眼助手に施灸してもらっています。

 

 

5.症例

患者は六十三歳の女性。先天性股関節脱臼があり、三年前までは年々悪化する症状に医者からは「手術しかない」と言われ苦しんでいました。そこで知人に勧められての来院となり、主な証は難経七十五難型の肺虚肝実証で経絡の力によって全体の痛みを回復し、局所的処置では尻部のしかも深い部分の硬結を丁寧に緩めることで股関節の負担を軽減しました。治療を終了したその後も定期的に来院はしていましたが、今回は自転車で転倒し全身の打ち身でしばらく寝込み、その時に再発した股関節付近の強い自発痛だけが回復せずに来院しました。

証は転倒直後であれば転落事故でお血が発生し自発痛となっているという解釈で脾虚肝実証も考えられました。しかし、事故からの時間も経過しており 、同じくお血が蓄えられているとしても高齢の婦人でもあり 先天病からの蓄積がやはり大きいと判断し難経七十五難型の肺虚肝実証で、女性であり痛みに片寄りがないことと開発中の腹診法より左右の肓兪の硬い側を判定し治療側を右と判断し、条文の「南方を瀉し北方を補い」を具体的な選穴に当てはめ右復溜・右陽池を営気の手法で補い左支正を瀉すことで治療。初回はドーゼも考慮し、いわゆる標治法は散鍼のみとしました。

経過は、初回の治療で疼痛は軽減したものの充分ではなく、二回目は証に間違いがなさそうなのでドーゼを極端に上げずに効果的な方法はないかと局部を触察すると腰眼と裏環跳にお血反応が明瞭なので、知熱灸を二壮行うと施灸と同時に患者から嘆息とともに楽になった旨を告げられました(残念ながらこのときの脉の変化は観察しておりません)。標治法は散鍼のみに留めています。以後、二回の治療でも施灸を行うと同様の感想が寄せられ、局部のお血反応は極めて薄くなりZ理の開闔状態も改善されていました。脉状も施灸前と施灸後では胃の気が増して柔らかな太さのある脉となっていました。最後まで尻部に深く刺鍼することはなく、合計四回で治癒。

 

 

6.考察

現在の臨床では、鍼のみでは動かしにくいお血があるかをまず病理考察し反応が捉えられれば知熱灸の施灸点として選択しています。鍼のみの処置に比べ知熱灸を行うことで臨床効果が顕著であります。

知熱灸の壮数についてです、臨床経験から設定した数字ではありますが標準が壮で、反応が薄いが知熱灸も捨てがたい場合には壮、明らかにお血が病症を引起こし反応も著名で頑固そうな場合には壮としています。今後の検討課題でもあります。

繰り返しになりますが知熱灸の病理考察は、血の変動によって現れる病症はある程度の範囲を有しているもので、鍼のみでの対処には不向きと思われます。特にお血反応に対しては、血を直接動かすためのアプローチが不可欠であり、知熱灸施灸点選択の目安とすべきと考えています。ご追試をお願いします。

 




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