1. タイトル

恥骨の亀裂骨折から来ていた激痛

 

2. 結果について

当初の痛みは治癒し、現在も健康管理で通院中。

 

3. 診察について

  3.1 初診時について

患者は当時40歳、女性、友人に紹介されての来院なのですけど鍼灸治療にまず恐怖を感じていましたが、年末であり痛みに耐えられないということで「藁にもすがる思い」で来院したと言います。

 

  3.2 主訴

 一年前から主に右側の上半身あちこちに強い痛みが持続しており、特に右股関節前面の痛みが最もつらい。右足は引きずりながらでないと歩けない。

 

  3.4 四診法

 望診は中肉中背だが、顔色は良くないと想像できる。

 聞診は、怯えた喋り方。

 問診では、一年前より上半身あちこちに強い痛みが発生していて全く回復せず、大きな病院を変えて何度も検査をしたのに原因が分からなかった。痛みが発生してきた要因も思いつかない。困り果てているとのこと。

 切診では、皮毛が立っており恐怖を感じていることがわかる。痛みを一番訴えられている右股関節前面を触れると凹んでおり、これは明らかにおかしい。最悪は大腿骨の方に問題があるのかもと心配するが、歌詞の痛みは訴えられていないのでこれはないと判断する。

 脈診するといきなり両方の寸口が同時に強くなっていることが触れられ、この脈状は骨折であることから脈診を一度中断して骨折部位の探求に切り替える。股関節前面に骨はないので確率が高い恥骨を探ると、右半分で見事なほどに縦方向の陥没がすぐ見つかった。その後の脈診では、緊張からの数脈が目立つ。

 脈状も触診も亀裂骨折であり症状としてもこれで納得できたのだが、亀裂部位を指で確認の為押さえながら腸骨などから打診を行い、響きがあることを確認させる。これで骨折だと確実な診断ができた。

 

4. 考察と診断

  4.1 西洋医学や一般的医療からの情報

 歯医者であれば痛みを感じている部位と原因部位が異なっている誘導痛はほぼ当たり前なのに、現場の医者は検査で何も出てこなかったなら別角度から検討をするという姿勢を見せてくれなかったことに大きく疑問を感じました。

 

  4.2 漢方はり治療としての考察

 一年間も強い痛みが持続しており物理的に壊れている部分があるのですから、気血津液で言えば血の変動を調整が必須です。しかも、中年に差し掛かっている女性ですから元々悪血があったところへ、さらに大量に蓄積していることが容易にわかりますので肝実証はこの段階でほぼ確実です。正気論か邪気論かといえば、もちろん邪気論へ分類となります。

 ここへ「瀉法鍼(二木式)」は、局所の血を強引に動かせてしまえるものなので肉離れ・捻挫・半月板損傷・亀裂骨折など臨床実績豊富なので、恥骨の亀裂骨折も治療経験があることからやや大変ではあるが、治癒には自信がありました。骨折と見抜ければ、時間と回数が必要なだけで治療そのものは単純にできてしまいます。

 

5. 治療経過

  5.1 初診時の治療

 痛みが発生した直後であれば脾虚肝実証の可能性も高かったと思われますが、一年経過しており局所も全身もC血を流し血の変動を調整することが目的となるので、福しん、脈診、肩上部の三点セットの総合から肺虚肝実証で、右治療側から伏流と陽池に営気の補法。側頸部へ邪専用ていしんでナソ治療をして、脈が菽法の高さへ揃うことを確認できました。

 続いて恥骨の亀裂部位へ瀉法鍼を加えると、最初かなりビックリされたものの普段よりは多めに行って、処置を終えたなら「痛みが軽くなっている」と感激の言葉に変わりました。

 経絡に一周してもらうために半時間近くのインターバルを取るのですが、さすがに初回はまだ自発痛が持続していたものの、この一年間で初めて痛みが減少したことにずっと感動していたということでした。側臥位で背部への散鍼、ゾーン処置を行い、ローラー鍼と円鍼で背部を終え、下腹部へムノ処置をして初回を終えました。あえて臀部の深い部位にはアプローチはしませんでした。

 

  5.2 患者への説明

 どんな要因で恥骨の亀裂骨折が発生したのかわからないが、治す方法はわかっているとまず断言しました。そして骨折なのである程度の日数はどうしても必要なので、一週間に一度ずつのペースで構わないこと、今は運動はしない方がいいが日常生活に特に制限はないことも伝えました。

 

  5.3 継続治療の状況

 二度目は1230日の年内最後の診療日で、初回からは5日語。本治法は難経七十五難型の肺虚肝実証で、以後もずっと同じです。治療後には痛みが消失していたのには本当に驚いたということですが、さすがにまだ一度きりであり自発痛は戻ってきていました。しかし、何より精神的な負担が取れたのが大きいとのこと。積雪があるので右足をすり足ではなく上げながらでないと歩けないこと、これが今回は辛かった。

 三度目は積雪と年明けの仕事を考慮して、初診から13日。二度目が終わってから股関節の持続的な痛みが半減したのが嬉しい。しかし、寒いので今回は腰痛が気になっていた。

 四度目は一週間後で、初診からは20日。三度目が終わってから寝返りでの痛みがなくなり、熟睡できるので体調が戻ってきている。しかし、日中も軽く動けるようにはなってきているのだが、少し動きすぎるとすぐ痛みが出てくる。

 五度目も一週間後で、初診からは27日。気をつけていれば痛みを感じずに行動できるようになった。しかし、まだ怖くて思い切った動きはできない。

 六度目も一週間後で、初診から34日。段差での痛みがなくなり、日常生活での支障がなくなっているが、まだ恐怖感が強い。

 七度目も一週間後、初診から41日。恥骨の亀裂骨折からの痛みは非常に良い状態だという感想になってきた。けれど今週は肩こりが非常に強かったので、こちらも治療をしてほしい。

 八度目は仕事の都合で三週間後で、初診から64日。恥骨の亀裂骨折からの痛みはすっかり回復したという感想で、前回の肩こりも直後に目がしっかり開いたのには驚いた。また腰痛が少し出てきていることと、花粉症にも毎年悩まされていてこの治療もしてもらえたらということになりました。

 

6. 結語

  6.1結果

 上記の経過の通り、七度の治療で亀裂の修復を触診で確認し、自覚的にも治癒している。あの痛みを二度と経験したくないという気持ちと、肩こりなど不定愁訴は定期的に発生してくることから現在も定期的に継続治療中。

 

  6.2感想

 covid-19のパンデミック以後、積極的にスポーツをしていなければ日本に居住している人たちは肉体的に衰えてしまったというのが、正直な感想です。平成時代でも亀裂骨折を起こして来院するケースはあったものの、部活中だったり農作業をしていたりと要因がはっきりしていてその瞬間を記憶しているケースのほうが多かったのですけど、令和時代は要因も分かららなければいつ亀裂が発生したのかも分からないケースのほうが圧倒的に多くなりました。もちろん素人の患者さんは「あっ骨にヒビが入った」などとは思わないのでありそういう発想もしないのですけど、とにかく数が増えていますから診察時の注意が必要です。腰椎が一番多いようですが、昨年(2022年)からは恥骨の亀裂骨折が非常に増えています。なぜかはわかりません。

 骨折の診断ですが、脈診では両方の寸口が同時に強くなっている脈状。古典の記載はありませんが肺と心が同時に強く働くというのは矛盾気味なのですけど、病理としては気血どちらも頑張って悪化せず修復に働いているからではないかと考察しています。臨床の中から発見してきました。そして遠い箇所から打診をして響きがあるかどうか、これが原始的ですが一番素早く確実な柔道整復師から教えてもらった物理的な方法です。しかし、こんな方法を知らない・忘れてしまっている柔道整復師だけでなく医者が多く、特に近年の医者は画像診断のみで患部へ手を触れることさえやらないことから、細かな骨折を見逃して・気づかずに痛みを訴えていても「異常ありません」と平気で回答し治療をしてくれません。それから西洋医学的には強い固定を行わないと骨は修復されないのですが、放置しておけば回復するという大変な勘違いをしている医者が多いのも事実です。柔道整復師は骨折と靭帯損傷・肉離れの区別ができていませんから、何でもかんでも固定して、通院を強制しています。もっとも一番多い亀裂骨折に対して、西洋医学的なアプローチを思いつきませんが。

 鍼灸師には瀉法鍼という強力な武器があるのですから、この分野へ積極的にアプローチすべきと考えます。瀉法鍼を行ったなら血が強引に動く反動で気が抜けますから、処置が終わったなら金メッキのローラー鍼で気が抜け続けるのを停止させることを忘れないでください。

 慣れてくれば亀裂の深さも診断できますし、肋骨などでは離断している骨折でも治療できるようになります。ポイントは骨折を起こしている部位をしっかり特定すること、「当たらずとも遠からじ」では回復までの回数に大きな差が出てしまいます。そして脈診で見つけられるようになると、今回の恥骨のような箇所でも探っていけるようになります 。いや、脈診を行わないと鍼灸師でも何でもかんでも重症に分類してしまう可能性があり、回数や予後を見誤るので診断には絶対必要だと強調しておきたいです。




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