生まれてきてくれて、ありがとう

− 妊娠から出産までの軌跡(その2) −

ベビーベッドで寝ている赤ちゃん

基礎体力作りが大切です

 妊娠期間中は体型の変化だけでなく体調の変化も大きく、実際にはつらいことの方が多いくらいです。これを快適に乗り越えるには、充実した体力が必須です。最近の女性は基礎体力の低下が目立ち、帝王切開だけでなく陣痛促進剤を用いなければならないケースが圧倒的に増加しているとのことですから、妊娠を希望するならまずは体力作りからですね。陣痛が弱い=体力がないと書いても過言ではないでしょう。
 私たちの場合には、ひょんな事からの 5000m競走 に始まり、 2004彦根シティマラソン の完走を目指してランニングし、その後は 水泳 でクーリングダウンをするというスポーツの趣味も一致していましたから、それも妊娠が分かるまで走っていましたから体力的にはバッチリだったでしょう。

治療室のベッドでの赤ちゃん  勤務の都合などで全員がこのような体力づくりを出来るとは限らないので、私たちのケースは特殊な方でしょう。しかし、不妊で悩んでおられる方々を診察させて頂くとかなりのケースが冷え性であり、これは体力づくりによって解消できるケースが多くあります。また「つわり」についても、有効な回避策は今回見出せなかったものの基礎体力が充実していれば楽な時間帯に用事を済ませることが出来るため、妊娠が分かってからでも遅くはありませんから無理のない体力づくりを心がけてください。もちろん時間も惜しまないことです。
 また可能であるならフルタイム勤務は妊娠初期段階までに抑えながらも、出産直前まで仕事を続けることが精神的支えと目標に也、体力的にも好影響となります(自営業だから出来たことではありますが、実際に出産動作に入る当日まで仕事をしていました)。



マタニティー・スイミングでのプール内歩行

マタニティー・スイミング

 すっかり有名になった「マタニティー・スイミング」ですが、水中だからこその浮力を利用して妊娠期間中を快適に過ごし出産の手助けをしようとするものです。胎盤が下がっていると切迫流産の危険性があるので、この検診さえクリアできていれば四ヶ月目から開始できます。
 施設によってやり方に差はあるものの、妊婦は股関節が堅くなり易くこれは歩行困難となり出産にも悪影響であることから、これらの改善が目的の一つであります。また静脈瘤の防止や妊娠糖尿病の防止だけでなく、検診が頻繁に受けられる利点もあります。

ダンスの様子写真  そして、何といってもの利点は「友達」ができることであり、情報交換のネットワークができることです。
 どうしても「つわり」により部屋に一日中閉じこもっていた人が多く、また結婚によって知人の全くいない土地へ引っ越してきての妊娠は、期待よりも不安の方を大きくしてしまうこともしばしばです。そんな時に同じく妊娠している人たちと出会うことにより孤独感から開放されるだけでなく、子供を通じての友達関係と子育ての知恵を交換できる利点は計り知れないものです。また旦那にとっても仕事とは関係のない友人を得られるまたとないよい機会であり、まさに「子は鎹(かすがい)」ですね → 言葉の意味がよく分からなかった人は、落語の聞き方が少ないですよ。落語を聞いていれば、必ずこの言葉は出てきます。



マタニティー・ブルー

 マタニティー・ブルーとは、妊娠と出産に伴う気分障害のことをいいます。これも今回は効果的な回避策が見つからなかったのですけど、特に初産であれば必ず襲われるものだと最初から身構えておく方がいいかも知れません。
 気分障害とは一般的には鬱(うつ)症状として認識されているでしょう。鬱症状にも様々なものがあるのですがこの場合は妊娠中毒症もなくつわりの重だるさが済んでいるのに気分が高揚しない、つまり無気力や何でも人のせいに考えてしまいます。妊娠中であれば準備状況や出産の恐怖からのストレスであり、出産後には体質の変化や生活時間の不規則や周囲との人間関係などやはりストレスがそのほとんどであり、中には子供が可愛いゆえに成長して欲しくないという願望を抱いたりするケースもあるようです。育児ノイローゼもマタニティー・ブルーの一種ですね。
 鬱状態で最も注意すべきは自殺ですが、他から来る鬱と比べればハッキリ願望が分かりますので周囲が守ってあげてください。
 気分障害の時に絶対にやっていけないことは、励ますことです。「頑張れ」という言葉は本人がやる気を出している時には追い風になるものの、やる気が出ていないのに「頑張れ」といわれれば怒りや恨みの感情が沸いてしまいます。校内マラソンを張り切って走っているなら「頑張れ」は嬉しい言葉ですが、嫌々走っているなら「頑張れ」は怒りを感じることを想像していただければお分かりになるでしょう。
 気分障害から脱出するには、本人が「気付く」しかありません。本を読むなどして自ら気付いてくれればそれで良いのですが、言い換えればいつも誰でも陥る危険性のある症状なのですから、人生という海を「泳いでいる」のか「おぼれている」のかを本人が判断するように仕向けてあげることです。




三陰交のお灸写真

安産灸について

 当院にも 「安産灸のおすすめ」 のパンフレットがありますけど、安産灸(あんざんきゅう)という言葉も、すっかり有名になりました。写真のように「三陰交(さんいんこう)」というツボにお灸をするもので、逆子の防止や回復だけでなく産道を柔らかくし妊娠中毒症を回避させられます。
 妊娠期間中に先輩女性鍼灸師から沢山教えて頂いたのですが、私たちの中で大きく認識の違っていたことがありました。それは、安産灸は胎児を大きくさせすぎないという効果もあるということでした。現代では2200g以下でないと未熟児とはいわず(実質的には2000g以下になるでしょうし妊娠期間が足りない方を優先的に考えるようです)、2700gあれば充分で3000g以上になると胎児にも母胎にも負担となり、やはり「小さく産んで大きく育てる」という言葉は理想論ではなく実際の経験から出てきている教訓だったのですね。
三陰交のお灸2  三陰交は内踝(ないか、うちくるぶし)の上方三寸、脛骨後縁に沿った強烈な圧痛点にあります。透熱灸(とうねつきゅう)という質のいいもぐさを使って、焼き切るタイプのお灸を左右対称に行います。逆子が回復しない場合には、小指の先端にある至陰(しいん)というツボにも施灸を加えます。
 当然のことですが、ツボの位置がずれていたのでは効果を発揮しませんので勝手に目当てを付けて施灸するのではなく、専門家に取穴してもらってから指導を受けて行ってください。
 産道を柔らかくすることから、施灸開始は五ヶ月の腹帯装着以降となります。お灸の数については色々と説があるものの、一般的には初期から末期に向かって数を増やしていき、特に終末では時間が許す限り多層灸とします。今回は教えてもらったとおり5,6ヶ月では7層、7,8ヶ月では14層、9,10ヶ月では21層とし終末にはお線香一本を使ってお灸をしていました。

 結果については 研究発表「私の妊娠体験から」( MSワード版 で詳述していますが、胎児がまだ充分下がっていない状態から陣痛が始まり、初産でもありますから陣痛開始から出産まで一日近く掛かりましたけれど、これは参道が柔らかくなるための準備時間であり自然なお産のために必要な時間でありました。そして分娩台に乗ってからは最後の力みも五回あったかどうか程度で、特にお母さんが仰向けになっていますから赤ちゃんはうつ伏せになって出てくるのが普通らしく、仰向けの場合にはゆっくりしか出られないものが仰向けなのにうつ伏せ以上のスピードで出てきたとのことです。それに出血がほとんどありませんでした。もちろん陣痛促進剤なども用いてはいません。
 ついでですが立ち会い分娩をして、助産士さんが合図をする呼吸法をこちらでやってしまいましたから赤ちゃんも安心して出てこられたことにしておきましょう。


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